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WIND  作者: 暇脳達弥
13/13

最終話「それぞれの進み方」

作中に登場する固有名詞は、現実のものとは、一切関係ありません。

「…う〜む。」

「どったの?えんタン。」

「いや…、もし、あのジムを損害賠償しなきゃならないとなると、いくらかかるか…と思ってな。」

「へ?そんなこと考えてたん?。だいじょうびだよ〜多分♪警察も、まさかたった一人であれだけやったなんて信じないって♪…それに…」

「…なんだ?」

「多分、警察は今、それどころじゃないと思うし♪にゅふふふ…♪」

怪しく微笑む誓雷。怪しいが、確信と自信に満ち溢れた微笑みだった。

ここは炎龍党のジム。パーフェクトでの一件から一夜明け、昨日とは打って変わって穏やかな時間が流れていた。

ジムの中では、すでに練習を始めている選手や練習生の姿があった。そんな姿を眺めつつ、炎護と誓雷は話をしていた。

「…そういえば、そうだったな。今頃、警察がパーフェクトの事務所に乗り込んでいる頃か…?」

「そだね〜…ポリちゃん、いろんな意味でビックリするだろうね〜。」

「だろうな…。それにしても、さすがは情報屋だな。警察にもしっかりパイプを持っているんだな。」

「組織との、じゃなくて、個人とのパイプだけどね〜。ライちゃん、ばれたら逮捕もんなことも結構やってるし〜。」

「…なるほどな。」

あの時、神凪のパソコンから捜し出した、パーフェクトの裏取引の証拠。誓雷はそれを、個人的に繋がりのある刑事に送ったのだった。こんなにはっきりとした証拠を押さえた、となれば、刑事として大手柄である。実際この刑事は、誓雷から買い取った情報のおかげで、同期の中では群を抜いて優秀である、と、評価されている。結果的に、誓雷には情報料が入り、刑事は出世し、犯罪組織は撲滅するのだから、いいことなのかもしれないが…。

「言ってみれば、それも裏取引だな。」

「まぁね〜。でもこれは、清く正しく明るい裏取引だからいいのよん♪」

「………。」

そうか?、と、心で疑問譜の炎護。それを知ってか知らずか、誓雷はぴょいびょいと出口に歩き始めた。

「行くのか?」

「あいっ。パーフェクトっていう金づるを潰しちゃったからね〜。新しい金の元を探さなきゃなの〜。」

「…大変なのだな、情報屋も。」

「まぁね〜。でも、人が沢山集まるとこには、必ず欲望あり。それをこっそり調べ上げ、必要とする人達に提供する。…ぬふ♪。裏の仕事人♪。ライちゃん、カッコイイ〜〜〜♪」

「…………。」

「というわけで、カッコイイライちゃんは、新たな情報を捜すのだっ!。えんタンは、表で頑張ってにゅ〜ん♪…あ、それとぉ。」

「なんだ?」

「ふーリンがまた帰って来たら教えてにゃ〜♪んじゃ、ばいなり〜♪」

そう言って、誓雷はジムを出ていった。

「……ふぅ。」

相変わらず疲れる奴だ。炎護は軽く溜め息をついて苦笑した。

「また帰って来たら…か。さて、次はいつになるのやら…。」

今朝、早々に街を出ていった風樹の姿を思い出しながら、炎護はぽつりと呟いた。




「……。」

その頃、当の風樹は、目の前に延々と延びている山道を見つめていた。この山道を登っていけば、やがて彼の修業場にたどり着く。シティを出て五年間、彼はこの山に篭り、自然を相手に修業を続けていたのだ。

パーフェクトの事件の翌日、彼は早々にシティを離れ、この場所に戻ってきた。本当は炎護と戦った後、すぐここに戻ってくるつもりだったのだから、予定外の滞在をしてしまったことになる。

なぜ、そこまで修業を続けるのか。自問自答する。修業を続けるのは、自分の強さに満足いっていないからだ。確かに五年間で強くはなった。風の理も体言出来るまでになった。炎護にも勝てるようになった。だが、満足出来ない。まだ一度も勝っていない相手がいるから。そいつに勝つまで、修業は終われそうにない。勝ちたい、と思ったら、勝つまで諦めない。自分に正直に生きなければ意味がない。それが、自分の信じる生き方だから…。

「………で。」

不意に、風樹は背後を振り返った。

「なんでついて来てるんですか?あなたは。」

「なんで、って、ついていきたい、って思ったから、ついてきたんです。」

風樹の後ろには、大きな登山リュックを背負った伊吹が立っていた。

「ついてきたい…って、私は別にハイキングに来たわけじゃないんですよ?」

「わかってますよ。修業で来たんですよねっ!」

「…わかってるなら、何故ついてきたんですか?」

「樹風さんが目標を達成する瞬間を見届けるためですっ!」

「…はい?」

「樹風さん、タクシーの中で言ったじゃないですか。自分のやりたいこと。」

「まぁ…言いましたけど。…え、まさか。」

「はいっ!」

驚きの表情の風樹に、笑顔で答える伊吹。

「樹風さんが、風に勝つ瞬間を見届けにきましたっ!」

「………。」

「…あ、あれ?なんか違いましたか?」

「…いえ、違いませんけどね…。もしかして、そのためだけについてきたんですか?」

「いけませんでしたか?」

「…いえ。」

あまりに真っ直ぐ過ぎる伊吹に、風樹は動揺を隠せなかった。

「あ〜、楽しみですっ。樹風さんがどうやって風に勝つのか!…あれ?でも、形のない風と戦って、どうやって勝ち負け決めるんだろ?そもそも、風と戦うって、どうやるのかな?」

「…ふぅ。」

一人でなにやら悩みだした伊吹に溜め息をつくと、風樹は再び山道を振り返った。確かに、やりたいことは風に勝つこと、だとは言ったが、それはもちろん物理的に風を支配するとか、そんなことではないし、そもそもそんなことは不可能だ。どうすれば風に勝ったことになるのか、それは風樹にもわからない。

「…もう行きますよ。ついて来ないんですか?」

「…え!?。は、はい!行きます行きます!」

はっ、と我に帰ると、既に歩き始めていた風樹の後をバタバタと追い掛けて来た伊吹。が、

「はうっ!?」

慌てて走ったせいか、豪快にすっころんだ。

「…まったく…。子供じゃないんですから…。」

やれやれ、と、風樹が手を差し延べる。

「うぅ〜…すみまひぇん〜…。」

「これからますます山道険しくなっていきますよ?そんな調子じゃ、登っていけないですよ。」

「い、いえ!もう大丈夫ですっ!どうぞ、ご心配なくっ!」

「…一応、心配ないってことにしておきますね。」

「はいっ!ありがとうございますっ!」

何に対してありがとうなんだろうか?。心の中で頭を捻りながら、風樹は山道を登り始めた。伊吹もそれに続く。

「しかし、あなたも物好きですねぇ。物珍しさだけでこんなところまでついてくるなんて。」

「…別に、それだけじゃないんですよ?理由。」

「…?」

「私、樹風さんの強さを身につけたいって思ったんです!」

「私の?」

「樹風さんに助けられた時。あの時、いろんなものを感じたんです。怖さとか、憧れとか…。でも、一番思ったのは、真っ直ぐな強さを持ってるんだな…ってことなんです。」

「そうでしょうか?」

「何て言うか…自分の信念に迷いがない、っていう感じで…。それで、自分が欲しい強さってこれなんだ!…って、はっきり思ったんです!。それで、助けられたお礼をしに行った帰りにうちの代表に話をして、百花繚乱を退団したところで…。」

「誘拐された…と?」

「はい…。また助けられちゃって、その時に、樹風さんの考えも聞かせてもらって…。もし樹風さんがレイジストになる、って言ったら、私、絶対に一番弟子になるっ!って、決めてたんですよ!」

「…。じゃあ、今は?」

「え?。今は…。…もう、一番弟子ですっ!」

「押しかけ弟子ですねぇ、まったく…。はっきり言いますが、見返りは何もないと思いますよ?」

「大丈夫ですっ!樹風さんと風との戦いを見て、勉強させてもらいますっ!」

「ちなみに、電気もガスも水道も通ってないところで寝泊まりすることになりますが?」

「え…。…、…だ、大丈夫ですっ!それくらい、なんてことありませんっ!」

「…ふふ。」

明らかに無理をしている伊吹に優しく微笑むと、風樹は空を見上げた。

自分が炎護にコーチを頼んだときのことを思い出した。あの時、彼もこんな気持ちになっていたのだろうか…。

悪くないかもしれない。自分の考えに賛同し、慕ってついて来てくれる誰かがいる、というのも。

彼女がどこまでついて来てくれるかはわからないが、その時はその時。それぞれが信じた道を行けばいい。ただ、それだけのこと。

「さて、急ぎますよ。日が暮れる前に小屋までたどり着きたいですからね。」

「え!?。そ、そんなに遠いんですか!?」

「今ならまだ引き返せますよ?」

「い、いえっ!!ついていきますっ!」

風樹と伊吹。二人の姿が、山道の奥へと消えていった。


数年後、彼らは再び街に舞い戻るのだが、それはまた別の話。


風は、決して吹きやむことはない…。


ついにラスト完成〜〜〜〜〜!なんとか完結することが出来ました…。ホッとしております(^.^;)。読んで下さった皆様、ありがとうございました!また次の作品も、よろしくお願いいたします!o(^-^)o

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