第十話「魔神、降臨」
作中に登場する固有名詞は、現実のものとは一切関係ありません
「う〜ん…困ったにゃあ〜。あのコたちはどこに連れてかれたのら〜?」
モニターの映像を何度も切り替えながら、誓雷は頭を抱えていた。建物内の主要な部分を通れば、確実にカメラに映るはず。なのに、ガレージを出て以降、どのカメラも彼女達の姿を捉らえられないでいる。
「…ちょっと、まずいですね…。」
隣でモニターを見ている風樹も、不安を隠し切れない。炎護にパーフェクトの選手達を引き付けてもらっている内に彼女達を救出し、全員を脱出させなければならないのに、肝心の彼女達がどこにいるのかわからないのでは助けようがない。しかも、主要な部分にあるカメラに映っていない、ということは、主要でない場所に連れていかれた、ということだ。
「ホント、厄介なことになってますね〜。」
「ホントよね〜。」
あくまで口調は気楽だが、表情は曇り気味である。
「…探しに行くしかないでしょうか?」
「…ないかもにゅ〜。」
ふぅ、と、息をついて、二人は立ち上がった。迷っている暇はなかった。一刻も早く、彼女達を見つけなければならないのだから。…が、その時。
…。
「………?」
地下室から外に出ようと、ドアノブに手をかけた風樹の動きが、ピタリと止まった。突然静止した風樹を不思議がる誓雷に、静かに、のジェスチャーをすると、風樹は、じっ…と耳をそばだてた。風樹の鋭敏な聴覚が、何かの音を捉らえたのだ。
……ッ……ッ
……コツ…コツ…コツ
「…足音。」
風樹の耳に、コンクリートの床を歩く足音がはっきりと届いた。それも、一人や二人ではない。重い足音、軽い足音、いくつもの足音が混ざりあって聞こえてくる。
「…なるほど。閉じ込めておくなら地下、ってことですか。しかし、なんてラッキーなんでしょ。」
「?」
「誓雷、この地下室周辺には、カメラは?」
「いんやぁ?仕掛けてないでぷ。」
「道理で。映らないわけですね。」
「?。一体どーいう…。?……。…!」
誓雷の耳にも足音が聞こえたらしい。一瞬、はっとした表情をした後、その口許に、にんまりと笑顔が浮かんだ。
「パーフェクトの人達って親切なのねん♪ライちゃん感動〜うるうる〜♪。」
「ですね。わざわざ私達の所に連れて来てくれるなんて、ね。」
「災い転じて福を成す〜♪ちょっと違うか〜にゃはは〜ん♪。」
すっかり陽気になった誓雷の様子に微笑みながら、風樹は部屋の電灯のスイッチに手を伸ばした。
「いやん、ふーリン♪。電気なんて消して、どうするお・つ・も・り?」
「ふふ…決まってるでしょう?彼女達を連れて来てくれた親切な人を、びっくりさせてあげるおつもりですよ。」
「ぬふふふふ〜♪」
さも楽しそうに笑うと、誓雷はひょいひょいと部屋の隅に移動し、何事か、準備を始めた。
それを最後まで見届けると、風樹はドアに鍵をかけ、電灯を消した。
…足音が近づいて来る。壁越しにでもはっきりとわかる音量の足音。それが、不意に止まった。
鍵を開ける音。ドアが開かれ、廊下の明かりが暗闇の中に差し込んで来る。
電灯のスイッチが押され、部屋の中に明かりが灯る。
いくつかの段ボールの箱が積まれたり置かれたりしているだけの、殺風景でだだっ広い部屋。明かりをつけた男は部屋の中を確認すると、外に声をかけた。
「入れ。」
両腕を後ろ手に縛られた女性達が、部屋の中に連れ込まれる。抵抗しても無駄だと思っているのか、誰ひとり抵抗せず、素直に部屋の中に入っていく。勿論その中には、以前に風樹達が助けた三奈風伊吹や、百花繚乱の代表の姿もあった。
彼女達が全員入ったのを確認すると、男は、彼女達を地下に連れてきた他の男達を宿舎へと帰し、ニヤニヤ笑いながら告げた。
「さてと、じゃあ代表さんには一緒に来てもらいましょうか。」
「…どこへ連れていくおつもりですか。」
キッと男を睨み上げる彼女。華奢な身体だが、気丈さや芯の強さは、さすがはレイジストを束ねている人物、と、いったところか。
「どこへ、って。言わなくてもわかってるでしょう?。うちの代表のとこですよ。」
「………。」
「なぁに、そんなに心配することはありませんよ。…あんたが素直に契約書にサインをすれば、ね。」
「………。」
俯いて唇を噛む彼女。その契約書がどれだけ不平等なものかは、容易に想像がつく。サインをしても、しなくても、自分達の置かれた状況は最悪だった。
「それからお前ら…逃げようとか、馬鹿なことは考えるなよ。一人でも逃げたりしたら…お前らの代表さんに、傷物になってもらうことになるぜ…?」
「クッ…。」
百花の選手の中でも気性の激しいらしい数人が、ギリギリと歯軋りしながら男を睨み付ける。今すぐにでも殴り掛かってやりたい気持ちと、それが出来ない現状との板挟みで、歯痒さも倍加しているようだ。
「フン、せいぜい大人しくしているんだな。…さぁて、代表さん。うちの代表が、お待ちかねですよ。」
そう言いつつ、ドアの方へ振り向く男。が…
「…………あ?」
男は、言葉を失ってしまった。
入ってきたときは、そんなもの、そこにはなかったからだ。
だが、ドアの前に、いつの間にか、
段ボール箱が四つ程積まれて、ドデン、と鎮座していた。
「…どういうことだ?」
理解が出来ない。この部屋に一番最初に自分が入り、百花の全員を中に入れ、外の連中を宿舎に帰し、ドアを閉めた。その時は、段ボール箱は部屋の隅に積まれていたはず。それが、ほんのわずかの間にドアの前まで移動していた…。勿論、誰も段ボール箱には触っていない。
「…薄気味悪ぃな。」
どういうことかはわからないが、とにかく退かさなければ外に出られない。男が段ボール箱を動かそうと手をかけた、その瞬間、
「どーーーーーんっ!!」
「!!!???」
突然室内に響き渡った大声。それと同時に、段ボール箱から、手足が生えた。
「な、な、な…?」
いきなりの事に動揺を隠せない男。そんな男に向かって、
「悪いやつを、どーーーーーーんっ!!」
「!?うぉっ!?」
段ボール箱が強烈な体当たりを喰らわせた。動揺していたせいで戦闘態勢がとれていなかった男は、全く避けることが出来ず、まともに吹っ飛ばされる。
「ぅぉぉおおーーーーっ!!!段ボール魔神、降臨ーーーーっ!!」
ヒーローっぽいポーズをとって、決めゼリフをビシッ!と決める段ボール魔神。見た目はただの手足の生えた段ボールなのだが。
「こ、このっ…ふざけやがって!」
その間に、男は態勢を立て直していた。素早く段ボール魔神に接近すると、一番上の段ボールに強烈な拳を放つ。
ベコォッ
段ボール箱に拳がめり込み、段ボール魔神が思わずよろめいた。
今更言うまでもないだろうが、段ボール魔神の中身は誓雷である。普段の彼ならあっさりとかわしている一撃だろうが、段ボールを被って視界が悪くなっている上に、フットワークも悪くなっている。直接打撃が当たったわけではないのでダメージは無いが、衝撃は避けられない。
「へっ!馬鹿が。潰してやるよっ!」
よろめいた誓雷に追い打ちをかけようと、再び拳を振り上げる男。
ガシッ!
「!?」
が、その腕を何者かが後ろから掴んだ。まだ誰かいたのか、と、男が振り返ると…
「潰れるのは、貴様の方だっ!」
振り向いたその顔に鋭い拳が炸裂し、思わずのけ反る男。驚きを隠せない。だが、驚いたのは殴られた痛みに対してではなく、その、殴られた相手に対してだった。
「な、なんでだ…?」
驚いたその表情に、二発目の拳が叩き込まれる。驚くのも無理はなかった。彼を殴った相手は、両手を縛られて、腕を使えないはずだったからだ。
「く…、くそがぁっ!」
だが、驚いてばかりいるわけにはいかない。相手の手を振り払って反撃に転じようとする。が、そこに別の一人が殴り掛かってきた。見ると、両手の自由になった百花の選手達が、次々に自分の方に殺到してきている。
(…嘘だろ?)
愕然とする男。そこに、殴る、蹴る、踏み付ける…。怒りの打撃が嵐のように浴びせられていった。
「はぁ…。やっぱり女性は怒らせると恐いですね〜。気をつけなきゃ〜。」
男が誓雷に気を取られているうちに、こっそり彼女達の拘束を解いて回っていた風樹が、どこか楽しそうに、そう呟いた…。
いよいよクライマックス間近となりましたo(^-^)o…しかし、今回は随分とご都合主義に走ってしまったような感じ…(^.^;)。楽しんでいただけたなら嬉しいですo(^-^)o




