デート当日、婚約者の幼馴染が体調を崩してしまった
「リリーが体調を崩したと連絡が……」
「えっ……」
私はリーナ。しがない令嬢である。
そして今日は婚約者のユーリ様と初めてのデート、のはずが……
待ち合わせ場所にユーリ様が来て開口一番がそのセリフだった。
リリーはユーリ様の幼馴染だ。
領地が隣同士でよく交流していた。
リリーは生まれつき体が弱く、よく体調を崩している。
ユーリ様はリリーを気にかけよく見舞いに来ていた。
そして……
「大変だわ! 今すぐリリーの所へ行かなければ!」
「ああ!」
私もリリーの幼馴染である。
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「デートしろよ!!!!!」
お屋敷中にリリーの声が響いた。
「なんで二人そろって見舞いに来てんの!? デートしろよ! カフェいけよ!! そんでさっさと結婚しろー!!」
「り、リリー、そんなに大声出しちゃ体に障るよ……」
「そうよ、リリー。ああ、顔も真っ青で……」
「誰のせいだと思ってんだ。おえ……」
リリーはぐったりと枕に倒れこんだ。
「せっかく、げほっ、ようやくのデートなのに……」
「大丈夫よ、リリー。デートなんてまたいつでもできるわ」
「そうだよ。今はそれよりもリリーの体調が……」
「ユーリ、このデート誘うのに何か月かかったと思ってんのよ」
「うっ」
「三か月よ三か月! リーナの都合がだのリーナの気持ちがだの言い訳して全然動かなかったユーリの首根っこつかんでリーナの所に向かわせたの私よ!?」
確かにユーリ様からデートのお誘いを受けた時、なぜか横にリリーが立っていた。
デートプランの説明も、そういえばリリーがしていた。
「リーナも!」
「はい!」
「今日の服、一緒に選んだじゃない……! ユーリが好きそうな色とか、雰囲気とか、げほ、私も一生懸命考えて選んだ服なのに……」
「リリー……」
「ようやくこぎつけた二人のデートなのに、私のせいで台無しなんてあんまりだわ……」
先ほどまで叫んでいたリリーは今度はしおしおになって涙を流している。
情緒が忙しそう……
「リリー、泣かないで」
私はリリーの手を握った。
思ったより冷たくて、やっぱり体調が悪いのだとわかる。
「リリーが私のために色々アドバイスをくれたの、凄く感謝してるの。ユーリ様の事もたくさん相談に乗ってくれて……、そんな大切な人が体調を崩したら駆けつけるのは当然でしょ?」
ユーリ様も前に出た。
「そうだよ。優柔不断な僕の背中をリリーは押してくれた。リーナは僕の大事な婚約者で、当然愛してる。でも、リリーだって僕にとって大切な人なんだ」
「……ばか」
リリーが絞り出すように言った。
「二人そろって何言ってんの。ばか。ばかばかばか」
「……ねえ」
落ち着いた声になった。
「お見舞いに来てくれたのは、嬉しかったわ。本当に」
「リリー……」
「でも。私が今一番つらいのは、体調じゃなくて」
リリーはゆっくりと私たちを交互に見た。
「三か月かけてセッティングしたデートが、私のせいで消えたことなの」
沈黙が落ちた。
そうだ。リリーもこのデートを楽しみにしていたのだ。
帰ってきたら話聞かせなさい、と。
どんな雰囲気だったか教えて、と。
「……ユーリ様」
「わかった」
ユーリ様の返事は早かった。
「リリー、ちゃんと薬飲んで、安静にしていて。お医者様の指示に従って」
「言われなくてもそのつもりよ」
「リリー、お土産は何がいい? 王都に最近雑貨屋ができたのよ」
「私の事は考えなくていいからさっさと行って」
「ふふ、わかった」
「楽しまなきゃ絶対許さないわよ!」
「たくさん楽しんでくるわ!」
私はユーリ様と手を繋ぎながらリリーの屋敷を後にした。
まだまだ時間はある。
カフェにも雑貨屋にも行ける。
リリーが提案したデートプランとは少し変わってしまうけど、きっとリリーも喜んでくれるだろう。
リリーに話せるように、今日はユーリ様と思い出をたくさん作ろう。
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後日
リリーの屋敷にて
「それでね、カフェのケーキが美味しくてね、イチゴのタルトなんかリリーが好きそうな見た目で、ユーリ様も同意してくれて……」
「……」
「カフェから見える景色もすごく綺麗で、今度はリリーとも一緒に行きたいねってユーリ様と話したわ」
「…………」
「雑貨屋ではユーリ様がこれリリーに合いそうって猫の置物を指してて、でも私はガラスの小鳥の方が似合うって思って、ちょっとだけ言い合いになってしまったわ。結局どっちも買ったのだけど。あ、はい、これがそれね。リリーにあげるわ」
リリーは猫の置物とガラスの小鳥を受け取った。
「……リーナ」
「? 何? リリー」
「もっとこう、ないの?」
「何が?」
「こう……二人で将来について語り合うみたいな」
「あ、そうそう! 帰り道にね、ユーリ様が急に立ち止まって……」
リリーは姿勢を正した。
やっと来た。
「なんて言ったの」
「『リリーが元気になったら三人でここに来よう』って」
「…………」
「ロケーションが素敵な橋の上でね、夕焼けがきれいで……」
「そこで言う言葉がそれなの!?」
「え?」
「夕焼けの橋の上で立ち止まって、それ!?」
「え、だって三人で来たいのは本当のことで……」
「そこはね、リーナ」
リリーはこめかみを押さえた。
「二人の話をするところなの。三人じゃなくて」
「……あ」
「わかった?」
「…………実は」
リリーは再び姿勢を正した。
「その後にね」
「うん」
「もう一回立ち止まって……」
「うん!」
「『リーナ、愛してる』って」
「そういうのよ!!!! そういうの!!!!!」
リリーは布団を跳ね除けて身を乗り出した。
「リリー?」
「ああ……よかったわ、本当に」
さっきまでの剣幕が嘘のように、リリーは静かに笑った。
猫の置物とガラスの小鳥を胸の上で抱えて。
「さぁほら、もっと聞かせなさい」
「え、ええ……?」
「まだまだあるでしょ。帰り道はどうだったの? 手は繋いだままだったの? 他にキュンとした言葉は無いの?」
「り……リリー落ち着いて……」
「こっちは三か月待ったのよ! 早く教えなさい!」
「ひええ……」
どうやらリリーにとって、恋バナは薬よりよく効くらしかった。




