自己紹介、もしくは旅立ちの日
二人は道中で、互いのことを知る為に会話をしていた。
通常、魔法は15歳までに発現し白人なら12歳までに発現するのだが、少女は魔法が発現しなかった。
奴隷として飼われていた少女は、役に立たないと言われ、厄介払いを受け追い出されたらしい。
(酷い奴らもいるもんだな…)
自分達の都合で奴隷にしておきながら、魔法が発現しないと分かれば追い出すとは、あまりにも身勝手な話だ。
「そう言えば、嬢ちゃんは何て名前なんだ?」
「名前、ですか」
そんなものがあったなー、と言った顔をしている。
「まさか、無いのか…!?」
「…はい」
驚く彼に対し、少し申し訳なさそうな顔で返事をする。
「…そ、そうか」
それに対し、彼も申し訳ない気持ちになる。
「……お兄さんには、名前があるんですか?」
「ああ、俺はテスター・サブジェクトだ」
「テスター…」
「スター、って呼んでも良いんだぜ」
この世界でもスターとは星や頂点と言う意味で使われる言葉で、テスターにとっては憧れのようなもの。
「…では、スター」
「お、おう」
(本当に呼ばれるとは思わなかった…)
軽くからかったつもりが、真に受けられてしまい少し困惑する。
「私にも、名前をください」
「くださいって、名前は両親から貰うものであって―――」
「私には親も仲間もいません、ですから貴方が名前を付けてください」
「…良いけど、さっき会ったばかりだぞ」
「良いんです、貴方は不思議と怖くないので」
どこか安心したような、気の所為で無ければ、そんな感じの声音のような気がする。
「まぁ、嬢ちゃんが言うなら良いが…」
(名付けてくれって、言われてもな…)
子供がいるような年齢でも無く、家を空けることが多いテスターは、ペットもいない。
名付けと言われても、どうしたら良いのか分からない。
躊躇いはあったものの、悪い気がしなかったテスターは考えることに決めた。
「スター」
「ん?」
「難しいようなら、あとでも構いません」
「そ、そうか?なら後回しにしちまうが、良いのか…?」
「今まで名前など無かったのですから、無くとも今更困りません」
「……いや、今決めた」
「へ?」
その白さは綺麗で清らかで、何にも染まらない純白。
少女はもう一人ではない、これからは仲間がいる。
「嬢ちゃんの名前は、ピュア・コンパニオンだ」
「ピュア・コンパニオン…」
そんなことを考えながら、テスターは名付けをした。
「嫌なら、考え直すが」
「いえ、気に入りました」
「…本当か?」
「本当です、これからはそう名乗ることにします」
「……!」
またしても、綺麗で純粋で、眩しい笑顔に心を奪われそうになる。
「どうしたのですか、スター?」
「い、いや!何でもない、それよりも着いたぞ」
「着いた、とは」
「ここだ」
話していると、あっという間に国に入る為の門へと来ていた。
「こ、ここが」
「っと、嬢ちゃ――ピュアは少し隠れてろ」
「は、はい、分かりました…」
「…?」
(何だ、急に顔色が悪くなったな…)
道中、気にしないようにはしていたが腹の虫が無く音を、隣から度々聞いていた。
(まぁ、とっとと中に入って飯でも食わせてやるか)
「おーい、お疲れさーん!」
「テスター!もうモンスターを倒して来たのか!?」
「ああ、数が多いだけで大したこと無かったよ」
「はは、そう言えるのはお前ぐらいのもんだよ…」
「それより、今は一人なのか?」
「本当は二人だったんだが一人が腹を壊してな、今は一人で門番だよ」
やれやれ、と呆れながら辛そうにしている。
国の門番は、他国やモンスターからの侵入を防ぐ役割があるのだが、実際に緊急時になるのは極稀に。
つまり、かなり暇なのだが暇すぎるが故に、話し相手がいないと案外辛いのだ。
「そうだったのか」
(なら都合が良い、これならピュアを連れて行ってやれる)
「ところで今日はもう、帰るのか?」
「ああ、今から帰って飯食って寝るところだよ」
「なら、たまには飲まないか?丁度、お前を入れたら上がりなんだよ」
「んー悪いけど、今日は少し疲れたから、また今度でも良いか?」
「何だよ、いつもならすぐに来るのに」
「悪いな、暫くは行けそうにもない…」
(いくら仲が良いとは言え、ピュアのことを知られる訳には行かないからな)
この門番とは、多少の付き合いがあるが信用は出来ない。
「……まさか、ヤバいモンスターでも出たのか」
「そう言うんじゃねぇけど、ちょっとな」
「……へー」
「な、何だよ、その目は」
「出来たな」
「……何が?」
「とぼけるなよ、女だよ女」
「なっ!?」
「ほら見たことか、やっぱり女じゃねぇか」
「ちがっ!違わなくも無いが、そういうんじゃねぇ!」
「はいはい、まぁ良いよ。お前にも春がやって来たと思うと、軍の同期だった俺は嬉しいよ」
「うるせぇ、とにかく暫くは忙しいんだ。あと俺の家にも来るな」
「そんなに怒るかよ!?まぁ良いや、安心しろって無粋な真似はしねぇよ」
「だから、そういうのじゃ…」
「じゃあな、別れたら好きなだけ付き合ってやるよ」
「だから違うって言ってんだろ!?」
門番は門を開けると、すぐに国に入り、どこかに行ってしまった。
(はぁ、違うって言ってんのに…)
少々しつこい門番に呆れつつ、周囲に人がいないことを確認する。
「……もう出てきて良いぞ」
ガサガサと茂みの影から、ピュアが顔を出す。
「これから、どうするんですか?」
「今は夜中だ、皆もう家の中に居るから出くわすことはない」
出歩く者、働く者は多少いるが、それでも昼間や夕方と比べれば何とか通れる。
二人は、テスターの出身地であり住まう国であるミリタリーに足を踏み入れた。




