慈愛の解放
(溢れ出る愛と涙の中で抱擁し合う美優と彩花。二人の周りから、すべての壁が消え去った。)
ここは、寮の壁を叩かれる心配も、業務車両での視線の不安もない。二人で、どれだけ嗚咽をあげても、どれだけ涙を多く流しても、どれだけ大きな声で愛の言葉を伝えても、ここでは誰にも見咎められない。誰にも見聞きされない。
これまで二人に容赦なくのしかかっていた、階級という壁、職務という重圧、責任という鎖、そして社会の偏見という影……ここには、もう、何もない。
二人を包んでいるのは、ただ、お互いがお互いを想い、その存在を全身で受け止め合う、純粋な慈愛だけだった。
美優は、彩花の心臓の鼓動を聞き、彩花は、美優の体温に溶けていく。二人の制服の下でひそやかに育まれてきた愛が、この築百年の静かな離れで、遂に何の制約も受けずに、満開に咲き誇った。
ここ湯涌温泉の、最も奥まった離れの部屋こそが、美優と彩花にとっての、真に永遠なる聖域だった。
・・・
・・・
…激しい抱擁と解放の涙が流れ続け、何分経ったのだろうか。
美優も彩花も、二人とも泣きじゃくって、人に見せられないようなひどい泣き顔になってしまった。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、私服の肩口はびしょ濡れだ。
でも、いいんだ。誰もいないから。ここでは、最も醜い感情の解放さえも、愛の証となる。
美優が、鼻をすすりながら、ようやく声を絞り出した。
美優: 「……お風呂入ろう。びしょ濡れだ。お湯に浸かって、全部洗い流そう。」
彩花: (美優を見上げ、涙で腫れた瞳で)
「……うん。そうだね、美優。」
二人は、涙の痕が残る私服を脱ぎ捨てた。階級の記章も、社会的責任も、全てを部屋に残して。
そして、裸のまま、そのまま部屋に備え付けられた露天風呂へと向かっていった。
湯船に足を入れ、ゆっくりと二人が一緒に浴槽に浸かる。温かい湯が、冷え切った心と、泣き疲れた体を優しく包み込んだ。
二人は、向き合って、お互いの顔を見合わせながら、残った泣き跡を、お湯でそっと洗い合っていた。
美優: (彩花の頬に手を添え、優しく涙の痕を拭いながら)
「ほら、彩花。もう泣かないで。これで全部流れた。」
彩花: (美優の顎に残った涙の筋を指で撫でながら)
「美優も。目が真っ赤だ。でも、美優の涙の痕は、私だけのものだから。」
湯けむりが立ち込める中、二人は、言葉よりも深い安堵と、純粋な愛の温もりを感じ合っていた。




