愛と愚痴の囁き
北陸新幹線のグリーン車は、座席配置もゆったりしており、通路を歩く乗客の数はさほど多くはない。しかし、列車が駅に停まるたびに、乗降客による人通りが発生する。二人は、そのような人目に付く機会を避けるように、囁くような小声で話し合っていた。
手のひらの触れ合いで愛を確かめながら、会話の主導権は、美優と彩花の間で自然に行き来した。
美優: (目を伏せ、ため息交じりの微かな声で)
「あの署内の、巡査部長としての重圧は、想像以上だ。この一週間、書類の山に埋もれて、正直、君の
『勉強会』の記憶だけが私を支えていた。」
彩花: (美優の手をそっと握りながら、同じく小声で)
「美優だって大変だったんですね。私も、昇進したばかりなのに、早速、巡査長としてのリーダーシップを試されることが多くて……。夜中まで資料を読んで、ショートメールで美優に愚痴をこぼしたかったです。」
美優: 「こぼせばよかっただろう? 私たちの愛の任務なんだから。私は、君からの『寂しかった』というメッセージ一つで、どれだけ心が満たされるか。」
時には仕事の愚痴を、時には一週間会えなかった寂しかった日々の想いを、そして、これからの旅路への期待を、二人は途切れなく話し合っていた。
彩花: 「湯涌温泉……あそこの離れの露天風呂を想像するだけで、もうこの新幹線に乗っていることが現実じゃないみたいです。あの広々としたお部屋で、美優と夜通し話したい……。」
美優: 「ああ。そこで、改めて、巡査部長と巡査長として、お互いをどう支え合うか、真面目に話し合おう。そして、階級のバッジと制服の重みを、すべて湯船に流してしまおう。」
二人の密やかな会話は、外界の喧騒から切り離され、新幹線の車両が刻む一定のリズムに乗って、愛の蜜のように流れていった。その静かな時間こそが、旅の始まりとして、二人の心を深く満たしていた。




