手のひらの対話
美優の冗談めいた「報告」の要求に対し、彩花は他の乗客にはバレないように、軽く、しかし恭しく美優に敬礼をして見せた。
彩花: 「了解しました、上村巡査部長。一週間の詳細報告は、追って密室にて。」
二人は、周囲に溶け込むように、静かに北陸新幹線の改札を抜け、列車に乗り込んだ。
乗車した新幹線は朝早く、しかも平日のためか、グリーン車は人影まばらで、乗客は皆、離ればなれで座っている感じだった。二人が確保したのは、通路を挟んで一席ずつではなく、隣同士の座席だった。
前回の旅行のように完全に仕切られたコンパートメントではないため、抱き合ったり、深く寄り添ったりと密接な行為をすることは勿論出来ない。しかし、隣同士で座る二人は、小声であればある程度の個人的な会話を交わすことはできる状況だった。
美優は窓側の席に深く腰掛け、彩花は通路側の席に座り、荷物を棚に上げた。
列車が動き出し、東京の街並みが遠ざかっていく。
美優: (極めて静かな小声で)「彩花。ようやく、ここに来れた。この一週間の緊張から解放される。」
彩花: (同じく小声で)「はい、美優。私もです。昨日、更衣室で『満喫してね』と言われたとき、公然と秘密を共有しているようで、ドキドキしました。」
二人は、周囲の乗客には見えないよう、シートの肘掛けの下、あるいは膝の上など、人目につきにくい場所で、そっと手を触れ合わせた。
美優の、階級が上がり一層頼もしくなった手が、彩花の指先に触れる。彩花は、その手のひらを包み込むように握り返した。
言葉では伝えきれない愛や、一週間の業務のねぎらいが、その手の接触を通じて、静かに、深く交流し始めた。手のひらの温もりが、「私たちは今、二人だけの愛の旅路にいる」という確かな事実を、二人の心に刻み込んでいた。




