運命の金曜日
・・・運命の金曜日を迎えた。
寮を出る際も、二人は細心の注意を払った。
まず、彩花が「一足先に」寮を出て、数分の時間差で美優が寮を出ていった。あくまでも、別々の旅行先へ向かうという体裁だ。
二人が決めた待ち合わせ時間は、朝8時、東京駅の新幹線改札前。
7時45分。先に待ち合わせ場所に到着したのは、上村美優だった。
彼女は、私服のロングコートに身を包み、トランクケースを引いているが、その立ち姿はやはり巡査部長らしく、周囲に緊張感を与えている。
美優は、時計と周囲をちらりと確認しながら、冷静に彩花を待った。
そして、7時50分。
橋本彩花が、トランクケースを転がしながら、少し息を切らして待ち合わせ場所に到着した。途中でコンビニに寄っていたためだ。
彩花が到着するやいなや、美優は、待っていたぞとばかりに、冗談まじりで、しかし公的な口調で遅刻を問いただした。
美優: 「橋本巡査長。待ち合わせ時間、朝8時でしたね。現在7時50分ですが、危うく遅刻となるところでした。規律違反ですよ。」
彩花: (顔を上げ、美優がすでに立っているのを見て、慌てて)「あ、美優! 上村巡査部長! お、お疲れ様です! 申し訳ありません、巡査部長。飲み物を……。厳正なる巡査部長の待ち合わせは、やはり気が抜けませんね!」
彩花は、美優が私服でありながら、「巡査部長」という階級を盾に冗談を言っていることがおかしく、笑いをこらえながら答えた。
美優: 「ふん。まあ良い。グリーン車は快適な密室だ。一週間分の『報告』をしっかり聞かせてもらうぞ、巡査長。」
美優の表情は、すでに厳格な巡査部長から、愛しい恋人へと変わりつつあった。二人は、誰にも悟られぬよう、微笑み合いながら、北陸新幹線の改札へと向かっていった。




