写真の中の微笑み
声を出さない静かな慟哭を続けているうちに、何分経ったのだろうか。
伊豆の温泉以来、時間を忘れて二人は抱擁し合い、部屋着を濡らしてしまった。
その濡れ方は、最早ただの涙ではなく、一週間分の業務の重圧と、長年の秘密の重さが混ざった「心の汗」のようだった。
美優が、最初に冷静さを取り戻し、そっと彩花に囁きかけた。
美優: 「……びしょびしょになっちゃうよ、彩花。」
彩花: (嗚咽混じりの小さな声で)「うん……でも……」
美優: 「判っているよ。」
美優は、その言葉を最後に、名残惜しさを乗り越えて、静かに抱擁を解いた。
二人は、涙の痕が残る顔で、お互い見つめ合った。その表情は、先ほどの苦悶から一転し、深い安堵と、清々しい喜びに満ちていた。
美優: 「……本当に、教官には、感謝しかない。」
彩花: 「私たち、教官がいなかったら、ダメになっていたかもしれない。」
美優: 「私たちが真面目に頑張っていれば、必ず見ていてくれる人がいるんだな。」
彩花: 「あの優しさは……、一生忘れない。胸を張って、美優を愛せる。」
二人は短い言葉で、繰り返し恩師への感謝を述べた。
そして、美優の視線が、部屋の壁に掲げられている警察学校卒業式の集合写真に向かった。その写真の中、若き日の二人の緊張した姿の横で、教官だった加藤警部補は、優しく微笑んでいた。
まるで、写真の中にいる教官が、この部屋での出来事を全て知っていて、今も二人を祝福し、「心配するな、大丈夫だ」と頷いているかのように見えた。
二人はその写真を見つめ、改めて、この愛が「正しい」ものであることを確信した。




