公園の「ふたり」のひととき
(ベンチに到着して、二人で一休み。息を切らしながら、二人は景色の良いベンチに腰を下ろした。
上原が持参したパックから、大福を取り出し、橋本に手渡す。)
上原美優: 「ふぅー! 最高のランニングだったね! これが、ご褒美の大福だよ。はい、どうぞ。」
橋本彩花: 「わあ、ありがとう! この疲れた体に染みる! いただきます…
…うん! 美味しい! 美優は本当に、甘いものを用意するのが上手だよね。」
上原美優: 「だって、彩花の好物だもの。さて、大福も食べたし、クールダウンも兼ねて、少しゆっくり話さない?」
橋本彩花:「うん… そうだね」
風が気持ちいい…
上原美優:「……それにしても、高校時代が遠い昔のようだね。」
橋本彩花: 「ね。あの頃はまさか、私たち二人とも警察官になって、こうして制服じゃない格好で一緒に大福を食べてるなんて、想像もつかなかったでしょ?」
上原美優: 「本当に。彩花は高校から剣道部だったんだよね? 私は、中学から剣道やっていたけれど、高校に入ってから『絶対強くなってやる!』って目標を立てて、毎日修行しているみたいだったな。」
橋本彩花: 「私も剣道一筋だったよ。でも、美優みたいに、試合で全国を目指すようなガチなタイプじゃなくて。剣道の『礼節』とか、『精神力』を学びたかったんだ。…
…そういえば、美優が警察官を目指したきっかけって、改めて何だったの?」
上原美優:「私は、高校で剣道を続けるうちに、だんだん『剣道の力を生かして、人の役に立つ、強く正しい存在になりたい』って漠然と思うようになったんだ。そんなある時、学校の近くの交番のお巡りさんが、地域のお祭りで迷子になった小さな子を、安心させるように抱っこしててね。その姿を見て、『あぁ、私もこの人のような強い存在になりたい』って、雷に打たれたみたいに感じたんだ。その日から、警察官以外の選択肢はなくなったかな。」
橋本彩花:「へえ……私も、似たようなところがあるな。私は、地元の警察官の方に親切にしてもらったのがきっかけで。高校生の時、夜道で自転車がパンクしちゃって困ってた時に、パトロール中のお巡りさんがわざわざ通りかかって、助けてくれたんだ。その時の『安心感』と『頼もしさ』が、忘れられなくて。私も、誰かにそんな安心感を与えられる人になりたいって強く思ったんだ。」
上原美優: 「そっか。私たち、目指したきっかけは違えど、根本にあるのは『誰かの力になりたい』って気持ちなんだね。」
橋本彩花: 「うん。だから、こうして同じ目標に向かって、走っていけるのが、本当に嬉しい。美優と一緒だと、制服を着ていない時でも、すごく心強いよ。」
上原美優: 「私もだよ、彩花・・・。あの頃の自分たちが今の私たちを見たら、きっと驚くだろうね。まさか、剣道で培った『正々堂々』とした精神を、一番大切な・・・この2人の関係にも活かしているなんて。」
橋本彩花: (笑って)「そうだね。『秘密だけど、卑怯なことはしない』、それが私たちだもんね。」
上原美優:「…」
橋本彩花:「どうしたの美優?」
上原美優:「秘密にしていたことがあるんだ。今日のランニングの時に話そうと思っていて…」
彩花は少し心配そうにしている。
上原美優:「あ、そんなに重大な話じゃないんだけど…実は今度『巡査長』を拝命して…」
彩花の顔が一気に華やかになる。
橋本彩花:「なんだ、美優の昇進話!おめでとう♪ 」
思わず抱きついてしまう彩花。
上原美優:(小声で)「ダメだよ、彩花。人に見られるって…」
橋本彩花:「あ!ごめんなさい…でも、嬉しい。おめでとう」
彩花は美優の手をに握り、ブンブンと縦に振っていた。
上原美優:「辞令はもらっていないんだけど、これからはより責務が重くなってしまうけど…がんばろうと思う…宜しくね、彩花」
橋本彩花:「もちろんだよ、美優。大変になると思うけれど…支えるね、全力で」
彩花は満面の微笑みで美優を見返す。
…本当は抱きついたり、キスしたり、したいけど、公園だから我慢していた。
上原美優: 「ふふ。さて、大福の力も借りて、随分話してリフレッシュできた。陽も少し傾いてきたし、そろそろ最後のひと踏ん張りして、帰路に着こうか。」
橋本彩花: 「賛成! よーし、美優! もう一周だけ、気持ちよく走って帰ろう!」
(二人は立ち上がり、お互いのジョギングウェアを軽く叩き合ってから、再び都市公園のコースを軽やかに走り出した。その足取りは、署へ戻ってからの仕事への活力に満ちているようだった。)




