スウェットの上の涙
(「秘密の抱擁の時間」と決めた美優と彩花は、静かに、そしてしっかりと抱きしめ合った。)
美優と彩花は、二人とも、寮内でくつろぐためのスウェット姿だった。
普段の硬い制服とは異なり、柔らかなスウェットの生地は肌に馴染むが、それでも美優の胸元には「巡査長」の階級と、所属を示す小さな刺繍が、彩花の胸元には「巡査」のそれが、しっかりと縫い付けられていた。
しかし、その服が何であるかは、この瞬間、二人にとっては何の関係もなかった。
大事なのは、この一週間、渇望し続けたお互いの抱擁自体であり、その温もりであった。
二人は目を閉じ、この安息の瞬間を全身で味わっていた。
この密着感が、まるであの旅行の時の、浴衣姿での布団の中の抱擁を思い出させていた。
彩花が、美優の背中を優しく撫でながら、ふと顔を上げた。
すると、抱きしめ合っている美優の瞳に、静かな涙が浮かんでいるのを認めた。声は出さず、音も立てずに、ただ涙だけが、美優の頬を伝っていた。
その涙は、「寂しい」「辛い」といった単純な感情の表出ではなかった。
それは、責任の重さ、階級の壁、そして愛する人との公私を分ける厳しさ、その全てを美優が一人で耐え抜いてきたことの証のようだった。
彩花は、言葉を発さなかった。この時、何を言うべきか、真面目な彩花にはすぐに分かった。
(ああ、やっぱり美優にとって、巡査長の責務は、私たちが思う以上に堪えているんだ。私に心配をかけまいと、ショートメールでは絶対に言わなかった、心の悲鳴なんだ。)
彩花は、美優の涙を指先でそっと拭い、何も言わずに、ただ一層強く美優を抱きしめ返した。その抱擁は、「私が美優のすべてを受け止める」という、彩花の真摯な決意の現れだった。




