見えない絆
昼食の時間も、休憩時間も、二人は職場の仲間たちと過ごし、お互いに親密な会話を交わすことはなかった。
だが、署内の喧騒の中、美優のコーヒーカップが空になった頃、橋本の姿が見えない隙に、デスクの端に新しいインスタントコーヒーの箱がそっと置かれていた。
そして、その日の勤務を終え、寮へと帰る夜。
二人は、誰にも見られない部屋の中で、再びスマホを取り出す。
【その日のショートメール】
美優へ(22:30)
署内に戻ると、時間の流れが早すぎる。明日も忙しくなりそうだ。君が置いてくれたコーヒー、飲んだ。ありがとう。
彩花へ(22:35)
私も、今日一日、美優の真面目な背中を見て、頑張れました。あの旅は夢ではなかったと、何度も心の中で確認していました。愛しています、美優。
翌日もその翌日も「巡査長」と「巡査」の職務は、依然として二人を厳しく律する。
しかし、二人の心の中には、美優と彩花の「聖域」での愛の記憶が深く秘められ、それが、次への活力を与える確かな絆となっていた。
そして旅行から1週間が経過した。
ある日のある時間、上村巡査長と橋本巡査は、激務の合間を縫って、署内の奥まった場所にある使用頻度の低い小会議室で、二人きりで会う時間を捻出した。
ここは、二人が密かに「非常用待避所」と呼ぶ、誰にも邪魔されないプライベートな空間だった。
扉を開け、互いの姿を見た瞬間、二人は「上村巡査長」「橋本巡査」という階級や規律を思い出す間もなく、まっすぐ相手に向かって駆け寄った。
「美優!」
「彩花!」




