日常への帰還
特急列車は、速度を落とし始めていた。
まもなく東京駅だった。
コンパートメントの中には、重苦しい沈黙が満ちていた。
このドアが開けば、二人は再び「上村巡査長」と「橋本巡査」という、階級と規律に縛られた関係に戻らなくてはいけない。
彩花: (美優の肩に頭を乗せたまま、顔を上げ、涙を浮かべる)
「美優……、もうすぐ、終わり…です…。」
その潤んだ瞳を見た瞬間、美優もまた、胸が締め付けられ、此方も涙を浮かべてしまう。
美優: (自身の涙を拭いもせず、彩花を抱きしめ返し)
「大丈夫、大丈夫だよ、彩花。泣かないで。また行こう。必ず行こう。泊まりじゃなくても、また二人で旅行やデートできるから。私たちは、もう知ってしまっただろう? 『聖域』の温かさを。」
彩花: (鼻をすすりながら、美優の言葉を強く求めて)
「絶対、絶対だよ、美優! 次の非番、取れなかったら、私、本当にダメになっちゃう……!」
美優: (彩花の目を見て、その言葉に、あえて巡査長としての強い意志を込める)
「大丈夫だ。私たちは真面目に、真摯に職務を遂行しているんだから、必ず報われる。だから――
(美優は、ここで意を決し、あえて階級名を使う)
大丈夫、『橋本巡査』!」
その真面目すぎる、しかし愛が込められた「橋本巡査」という呼び方に、彩花は張り詰めていた心がフッと緩むのを感じた。
彩花: (涙を浮かべながらも、クスッと笑ってしまう)
「もう、美優ったら……。最後まで意地悪なんだから……。」
(列車が、東京駅のホームへ滑り込む。ドアが開くまでのカウントダウンが始まった。)
彩花は、美優の涙が残る頬に、別れを惜しむ最後のキスを贈ると、姿勢を正した。そして、涙を完全に拭い、凛とした「橋本巡査」の顔に戻った。
彩花: 「了解です、『上村巡査!』」
(彩花は、別れがたい恋人へではなく、上官へ送るように、短い敬礼をした。美優もそれを見て、唇を噛みしめ、「上村巡査長」の表情を取り戻した。)
コンパートメントの鍵が開く。
恋人同士の二人は、いろいろ辛く、名残惜しいけれど、また二人の日常、真面目な警察官としての日常へと戻ったのであった。




