名残惜しい帰路
彩花が「帰りたくない」とぐずってから、時間はあっという間に過ぎた。
美優の「愛のために戻る」という言葉に納得したものの、二人の身体は別れを拒否し続けていた。
結局、二人はチェックアウトのギリギリ、12時を知らせる内線のベルが鳴るまで、浴衣姿のまま布団の上で強く抱きしめ合っていた。
交わされる言葉は、もう複雑な感情を表現しなかった。ただ、本能的な愛の確認だけ。
「美優、好き……。」
「私も、好きだよ、彩花。」
言葉が尽きると、代わりにキスを交わし、お互いの存在の温もりを、記憶に焼き付けていた。
しかし、無情にも時間はやってきた。
重い足取りで私服に着替え、荷物をまとめる二人の姿は、チェックイン時の意気揚々とした様子とは対照的だった。顔には、悲しみと、現実に戻るための決意が混ざり合っていた。
旅館の玄関で、「またのお越しをお待ちしております」という仲居の言葉も、二人の耳には遠く聞こえた。
・・・
帰りの特急列車も、もちろんコンパートメントを予約していた。
しかし、入ってきた瞬間のあの解放的な歓喜とは全く違う空気が、この密室を満たしていた。
ドアが閉まり、列車が動き出すと、二人はすぐに隣り合って座り、無言で手をつなぎ合った。
美優: (静かに)
「……寂しいね、彩花。」
彩花: (美優の肩にそっと頭を乗せ)
「はい。時間が止まってくれたら、どんなに良かったか……。もう、この列車が永遠に署に着かなければいいのに…。」
行きのコンパートメントでは、束縛からの解放に涙を流し、愛を語り合った。
しかし、帰りのコンパートメントは、愛おしい非番の終わりの悲しみと、再び始まる真面目な日常への重圧を共有する場所となった。
美花: 「大丈夫だよ、彩花。私たちは、この二日間で、強くなった。次、非番が取れる日まで、また頑張ればいい。このコンパートメントで誓ったことは、忘れない。」
彩花: 「うん。絶対忘れない。私の美優。また、私たちだけの聖域を作りましょう。」
二人はそう囁き合い、手をつないだまま、窓の外を流れる景色をぼんやりとみつめていた。
その手には、昨日までのお互いの愛と温もりが、しっかりと残っていた。




