帰りたくない二人
(朝日の下の露天風呂から上がり、二人は再度浴衣に着替えた。湯上がりの熱と、名残惜しさが身体に残っている。)
部屋に戻ると、一組の布団はまだそのまま敷かれていた。
チェックアウトの12時までは、仲居が部屋に入ることはない。
美優は、その布団を横目で見ながら、もう少しこの「非番の聖域」でゆっくりしようと思っていた。
美優: 「よし。布団もまだそのままだし、チェックアウトまでもう少し時間がある。紅茶でも淹れて、もう少し話そうか、彩花。」
美優が振り返ろうとした、その瞬間――
背後から、彩花が美優の身体に強く抱きついてきた。
彩花: (美優の背中に顔を埋め、声がぐずついている)
「美優、いや……。まだ、こうしていたい。」
美優: (彩花の手をそっと握りながら、その気持ちを理解する)
「彩花……。」
彩花: 「帰りたくない……。あの、冷たくて、硬い世界に戻りたくないよ。美優と『巡査長と巡査』の関係に戻りたくない……。」
美優は、その切実な言葉に、胸が締め付けられるのを感じた。
彩花: 「女性警察官に戻りたくない。警察官失格と言われてもいい……。私、この二日間で、こんなに美優に甘えちゃったから、もう、あの真面目な世界に戻れる自信がないの……。」
美優はそっと振り返り、泣きそうな顔をしている彩花を、優しく抱きしめ返した。
美優: 「彩花。泣かないで。私も同じ気持ちだよ。私も、このまま彩花と逃げてしまいたいと、正直に思うよ…」
(美優は、彩花の頭を優しく撫でた。)
美優: 「だが、私たちは警察官だから、戻らなくてはいけない。
あの世界に戻り、真面目に職務を全うするからこそ、この『非番の聖域』の価値があるんだ。
いいかい? 私たちの愛を守るために、またあの制服を着るんだ。」
彩花: (美優の胸に顔をうずめたまま、小さく)
「……美優の言う通りだ、ね。私たちの愛のために……。」
美優は、彩花を強く抱きしめ、残りわずかとなった二人の時間を、一秒たりとも無駄にしないようにと願った。この切ない別れの瞬間さえも、二人の愛を強くする、大切な時間となった。




