乾杯
数分間の抱擁の後、二人はそっと体を離した。
美優の頬にも、彩花の目元にも、解放と安堵の涙の跡が光っていた。
彩花: (潤んだ瞳で美優を見上げながら、優しい手つきで美優の涙を拭う)
「もう、美優まで泣いちゃうんだから……。この涙は、『お疲れ様』の涙ですね。」
美優: (彩花の手を取り、自分の涙を拭ってもらいながら)
「彩花こそ。私もまさか、こんなに涙腺が緩むとは思わなかった。……この涙は、『やっと自由になれた』という、私たちの決意の証だ。さあ、顔を上げよう。制服も規律も束縛も…もうここにはない。」
(美優は、今度は彩花の目元に残った涙の跡を、親指でそっと拭った。その触れ合いは、署内では決して許されない、愛おしさに満ちたものだった。)
美優: 「さて、彩花。まずは乾杯だ。お互いの『極上の非番』と、『真面目に頑張った日々』に。」
(美優はコーヒーを、彩花は紅茶を手に取り、そっと紙コップを合わせた。)
彩花: 「乾杯! 私たちの、二日間に!」
(一口飲み、温かい飲み物が体に染み渡るのを感じると、二人の口からは、堰を切ったように言葉が溢れ出した。それは、一週間もの間、ショートメールでは伝えきれなかった、あまりにも多岐にわたる「真実」だった。)
彩花: 「…ねえ、美優! あの捜査本部の時、私、本当に頭に来たことがあったの! 〇〇課の巡査部長、私を後輩の男の子と間違えて、『おい、あれやれ』って! 私、ちゃんと『橋本巡査です』って答えたのに、また『おい、あれ』って! 私、あの時、泣きそうになったんですよ!」
美優: 「分かる、彩花! ああいう時、女性警察官だからって甘く見られると、本当に腹が立つ!
私もね、先日、剣道指導の後、教官の一人に『上村巡査長は、嫁に行くより仕事に生きるタイプだ』って、上から目線で言われたの。私、思わず『公私について、あなたの評価は必要ありません』って言ってやったけど、…もう、ムカムカして!」
彩花: 「わあ、言ってやったんだ! さすが美優! 私、そういう時、『笑ってスルーする』しかできなくて、いつも後で美優に話を聞いてもらってたじゃない? でも、ここではもう、笑わなくていいんだよね。私、『悔しいよ!』って言いたい!」
美優: 「言え! 悔しい!腹が立つ!って、ここで全部吐き出せ!私は巡査長でも、指導員でもない、ただの美優として、彩花のその気持ちを全て受け止めるから。」
彩花: 「美優……!」
(仕事の愚痴や、署内の人間関係の苦悩に加えて、二人の会話は次第に、よりパーソナルな領域へと入っていく。)
美優: 「彩花が、この間の非番で一人で観に行った映画、どうだった? 私はもう、『彩花がいないから、映画館なんて行ってもつまらない』と思って、結局、道場に行ってしまったよ。」
彩花: 「ええ! 全然面白くなかった! 映画の途中で、『あ、これ、美優だったら笑ってくれるのに』って考えてしまって、全然集中できなかったんです。だから、今度、二人で観る映画を探しておきました!」
美優: 「ありがとう! それは楽しみだ。そして、今日のこのコンパートメントでは、愛の言葉も、隠さずに言っていいんだよ。彩花。」
彩花: 「もう、美優ったら……! 愛してるよ、美優! 誰にも聞かれないから、何度でも言える! 私の、最高の恋人!」
(コンパートメントの中は、特急列車がレールを刻む音と、二人の弾むような笑い声、そして、溢れる愛の言葉で満たされていった。そこには、二人の真面目さと規律が作り上げてきた、最高の自由があった。)




