表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葛藤の上に花は咲く  作者: 優月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/29

解放の瞬間

二人は、列車に乗り込む前に、構内のコンビニで飲み物を購入した。

上村はブラックコーヒーを、橋本はホットの紅茶を選んだ。


橋本彩花: 「美優、私、昨日の夜、全然眠れませんでした。遠足前の子供みたいに、わくわくしてしまって。布団の中で、何度も旅行ガイドブックを読み返していましたよ。」


上村美優: 「私もだ、彩花。あの徹夜続きの疲労も吹き飛んでしまったようだ。私も3時間ほどしか眠れなかった。体が『今日は非番だ、最高だ』って、興奮しすぎているんだろう。」


(二人は目を見合わせ、緊張と期待からくる眠りの浅さを共有し、くすっと笑い合った。既に、制服を着ていた昨日までの自分たちとは違う、素の二人の時間が流れ始めていた。)


ホームへと向かうと、特急列車がホームに滑り込んできた。

ドアが開き、二人は早速、指定されたコンパートメントへと向かった。


コンパートメントは清潔でプライベートな空間だった。まるで、静かに二人の到着を待っていたかのように。


二人は手早く荷物を棚に上げ、席に着く。

発車のベルが鳴り、列車がゆっくりと動き始めた。

その瞬間、橋本がすかさず立ち上がり、扉に鍵をかけた。


カチッ、

と鍵が閉まる音が響いた。


その瞬間、公の目から完全に隔離されたという事実が、二人の心に稲妻のように走った。


上村は、鍵が閉まる音を聞いた途端、もう我慢ができなかった。


上村美優: 「彩花……!」


橋本彩花: 「美優……っ!」


二人は言葉にならない衝動に突き動かされ、強く、そして深く抱きしめ合った。


ギュッと抱きしめられた上村の肩に、橋本が顔をうずめる。その背中に回された上村の腕にも、力がこもる。


・・・


警察官としての任務に対する束縛。

階級間の規律の束縛。

お互いの真面目さゆえの、公私を分けるという見えない束縛。


そして、女性同士の恋愛に対する、社会的な様々な束縛。


…その全てが、この一瞬、「カチッ」という鍵の音と共に解き放たれた。


上村美優: (橋本の肩に顔を埋め、声にならない嗚咽を漏らしながら)「やっと……、やっと二人きりだ……。この瞬間が、どれほど待ち遠しかったか……。」


橋本彩花: (上村の背中を強く抱き締め返し、瞳に涙を潤ませて)「美優……! 良かった……。本当に、良かった……。もう、何も気にしなくていい……。私たちは、私たちだけのものだよ……。」


張り詰めていた心が限界を迎え、安堵の涙が、制服の硬さに慣れた上村の頬を伝った。抱きしめ合いながら、二人は「私たちは今、自由だ」という、真実の解放感を全身で噛みしめていた。


その抱擁は、日々の激務と様々な抑圧を乗り越えた、二人の愛と絆の証だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ