解放の瞬間
二人は、列車に乗り込む前に、構内のコンビニで飲み物を購入した。
上村はブラックコーヒーを、橋本はホットの紅茶を選んだ。
橋本彩花: 「美優、私、昨日の夜、全然眠れませんでした。遠足前の子供みたいに、わくわくしてしまって。布団の中で、何度も旅行ガイドブックを読み返していましたよ。」
上村美優: 「私もだ、彩花。あの徹夜続きの疲労も吹き飛んでしまったようだ。私も3時間ほどしか眠れなかった。体が『今日は非番だ、最高だ』って、興奮しすぎているんだろう。」
(二人は目を見合わせ、緊張と期待からくる眠りの浅さを共有し、くすっと笑い合った。既に、制服を着ていた昨日までの自分たちとは違う、素の二人の時間が流れ始めていた。)
ホームへと向かうと、特急列車がホームに滑り込んできた。
ドアが開き、二人は早速、指定されたコンパートメントへと向かった。
コンパートメントは清潔でプライベートな空間だった。まるで、静かに二人の到着を待っていたかのように。
二人は手早く荷物を棚に上げ、席に着く。
発車のベルが鳴り、列車がゆっくりと動き始めた。
その瞬間、橋本がすかさず立ち上がり、扉に鍵をかけた。
カチッ、
と鍵が閉まる音が響いた。
その瞬間、公の目から完全に隔離されたという事実が、二人の心に稲妻のように走った。
上村は、鍵が閉まる音を聞いた途端、もう我慢ができなかった。
上村美優: 「彩花……!」
橋本彩花: 「美優……っ!」
二人は言葉にならない衝動に突き動かされ、強く、そして深く抱きしめ合った。
ギュッと抱きしめられた上村の肩に、橋本が顔をうずめる。その背中に回された上村の腕にも、力がこもる。
・・・
警察官としての任務に対する束縛。
階級間の規律の束縛。
お互いの真面目さゆえの、公私を分けるという見えない束縛。
そして、女性同士の恋愛に対する、社会的な様々な束縛。
…その全てが、この一瞬、「カチッ」という鍵の音と共に解き放たれた。
上村美優: (橋本の肩に顔を埋め、声にならない嗚咽を漏らしながら)「やっと……、やっと二人きりだ……。この瞬間が、どれほど待ち遠しかったか……。」
橋本彩花: (上村の背中を強く抱き締め返し、瞳に涙を潤ませて)「美優……! 良かった……。本当に、良かった……。もう、何も気にしなくていい……。私たちは、私たちだけのものだよ……。」
張り詰めていた心が限界を迎え、安堵の涙が、制服の硬さに慣れた上村の頬を伝った。抱きしめ合いながら、二人は「私たちは今、自由だ」という、真実の解放感を全身で噛みしめていた。
その抱擁は、日々の激務と様々な抑圧を乗り越えた、二人の愛と絆の証だった。




