最高の旅へ
ファミレスを出た二人は、寮へ戻る前に近くのコンビニへ立ち寄り、車中で飲む飲み物や、お菓子、そして何よりも旅先で使うためのちょっとした贅沢品を買い足した。
寮に戻った後、二人はそれぞれの部屋で、旅の持ち物の最終確認を始める。
上村は、旅行の計画を立てた際のメモを広げ、電車の時刻や旅館への連絡事項に不備がないかを几帳面にチェックした。
橋本は、旅行先で上村を喜ばせるための秘密の「お土産」(地元の銘菓や、二人が初めて会った頃のエピソードにちなんだ小物など)を、バッグの奥にそっと忍ばせる。
そして、激務を乗り越えた二人が最も大切にしたのは、質の良い睡眠だった。
そのため、早めに入浴を済ませ、心身を解放させていた。
橋本は、湯船に浸かりながら、明日から始まる二人の時間に胸をときめかせ、旅行先の露天風呂での会話を心の中でシミュレーション・・・。
一方、上村は、剣道指導で酷使した肩や腕を丁寧にマッサージし、「明日からは制服も、竹刀も、巡査長という肩書きも、全て一旦置いていく」と自分に言い聞かせていた・・・。
・・・
日付が変わる直前、二人は最後のメッセージを交わしていた。
美優 から 彩花へ
(23:50)準備完了だ。明日は、普段より少しだけ時間をかけて、身だしなみを整えようと思っている。彩花も、しっかり寝て、最高の笑顔を見せてくれ。おやすみ。
彩花 から 美優へ
(23:55)もちろんです。もう、楽しみすぎて眠れないかもしれません(笑)。美優の隣で過ごす非番の時間は、私にとって、何よりも大切な『心の制服』です。明日、駅で会えるのを楽しみにしています。愛しています。
・・・
二人は、それぞれのベッドに入り、一日の愚痴を吐き出した解放感と、明日からの極上の非日常への期待を胸に、静かに眠りについた。それは、真面目な二人が、自分たちの愛と未来のために捧げる、最も必要な儀式であった。
・・・
2日間の非番当日。そしていよいよ一泊2日の二人だけの伊豆温泉旅行の日となった。待ち合わせは朝9時に東京駅。伊豆へ向かう特急列車に乗り込むため、二人が決めた時間だ。
午前8時40分。
待ち合わせ場所である新幹線中央改札付近に、上村美優はすでに立っていた。彼女は黒のシンプルなパンツスーツに、オフホワイトのニットを合わせ、知的な雰囲気を漂わせている。警察官としての規律が染みついた彼女にとって、時間厳守は呼吸をするのと同じくらい自然なことだ。
しかし、約束の20分前という早さに、上村は少しだけ苦笑した。
「真面目すぎるにもほどがある」と自分自身にツッコミを入れていた。
午前8時45分。
橋本彩花が小走りで現れた。淡い色のワンピースに、肩掛けのカーディガンという柔らかな装いだ。彼
女もまた、時計を見て「さすがに早すぎたかな」と少し恥ずかしそうにしている。
上村は橋本の姿を見つけ、手を挙げる。
上村美優: 「彩花! 早いな。9時待ち合わせだぞ。」
橋本彩花: 「美優こそ! 8時40分に来てるなんて、完璧主義すぎるよ(笑)。私も8時45分に着いたのに、まさか美優がもういるとは思わなかった。」
上村美優: 「・・・いや、私も『彩花はきっと8時50分頃には来るだろう』と思って、早めに着たんだが……彩花の予測を上回ってしまったようだな。」
(二人は顔を見合わせ、思わず苦笑した。真面目すぎて、約束の時間よりも早く来てしまう自分たちの律儀さが、おかしくてたまらない。)
橋本彩花: 「お互い、『警察官の血』が騒ぐんですね。定時で上がれると分かった途端、その勢いのまま『定時前に待ち合わせ場所へ!』って(笑)。」
上村美優: 「ああ、まったく。こんなところまで真面目じゃなくてもいいだろう、と思うよ。
でも……(目を細めて)そうやって時間通りに来てくれる彩花が、私は愛おしいよ。」
橋本彩花: 「美優……っ。私もですよ。時間に正確な美優だから、安心して時間を忘れられます。さあ、もう時間もありますし、出発しましょう。私たちだけの、特別な非番の始まりです!」
(二人はしっかりアイコンタクトを交わし、溢れる期待を胸に旅を開始した。この真面目すぎる二人の旅は、最高のスタートを切った。)




