正直な「私」
・・・一転して非番の日は、二人の関係は「私」の時間となる。
二人きりの場所で、美優は自分の完璧な鎧を脱ぎ捨てていた。とはいえ、特別なことはしない。
「今日の署長への報告書、完璧だと思ったが、課長はあの部分の論理が弱いと指摘した。まだ、どこかに非合理的な隙があるのだろうか…」
完璧主義ゆえの美優の愚痴を、彩花はいつも真剣に、そして優しく聞き入れた。
「美優さんの論理は、いつも正しいですよ。でも、課長は、美優さんの完璧さに、『人間味』を求めているんじゃないかな。たまには、弱音を吐いてみたらどうですか?」
彩花もまた、現場での失敗や、体力的な限界に直面した時の悔しさを美優に吐露した。
「また、市民の方の対応で、気の利いた言葉が出なかった。美優さんなら、あんな時、どう対応しますか?」
美優は、冷静な分析と、彩花から学んだ人間的な視点を交えながら、的確なアドバイスを与えた。
二人は、ただロマンチックな愛を囁き合うだけでなく、お互いの職業人としての成長を助け合う、真面目で強固なパートナーシップを築いていた。
「私達の人生に、これほど人間的な温もりを与えてくれる存在は、二度と現れないだろう」
美優の完璧な論理と、彩花の泥臭い人間的な温かさで、お互いに足りない部分を補い合っている関係に満たされていた。
厳しい規律の中で生まれたはずのその出会いは、秘密の愛という形で、二人の職業人生を支える最も強固な連帯へとなっていた。美優の合理性は、彩花を守るための防御壁となり、彩花の人間性は、美優の冷たくなりがちな心を温め続けた。
・・・
ある日、上村美優巡査と橋本彩花巡査が、署内の資料室の片隅にある小さな部屋で手をつなぎながら話していた。
端から見ると、2人は警察官らしい真面目さの中に、お互いを深く理解し支え合う、素直な関係性が垣間見えるような感じだった…。
上村美優: 「……はぁ、今日も一日、長かったな。あの交通死亡事故の現場は、何度行っても心が痛む。被害者の方のご家族の気持ちを考えると、本当に……」
橋本彩花: 「美優、お疲れ様。無理しなくていいんだよ。美優がちゃんと向き合ってるから、そう感じるんだと思う。私も今日は、行方不明の高齢者の方の捜索で、夜通し歩き回ったから、足がパンパン。でも、無事に見つかって、本当に良かった。」
上村美優: 「彩花も、本当にお疲れ様。……でも、無事に見つかって良かったね。彩花はいつも、どんなに大変な状況でも、冷静でいられるからすごいよ。私なんて、感情的になってしまうこともあって、まだまだ未熟だなって思う。」
橋本彩花: 「そんなことないよ。美優は、その熱い気持ちがあるからこそ、困っている人に深く寄り添えるんだ。私にはできないことだから、いつも尊敬してる。それに、美優が一生懸命頑張ってる姿を見ると、私ももっと頑張ろうって思える。」
上村美優: 「彩花……ありがとう。彩花とこうして話せる時間があるから、また明日も頑張れるんだ。もし彩花がいなかったら、私はきっと、もっと空回りしていただろうな。」
橋本彩花: 「ふふ、私もだよ。美優がいるから、私もここにいられる。警察官の仕事って、大変なことも多いけど、美優とだったら、どんなことも乗り越えられる気がする。」
上村美優: 「うん……。剣道でもそうだったけど、一人で戦うよりも、信頼できる仲間が隣にいる方が、何倍も強くなれる。彩花は、私にとっての『相棒』であり、一番の『支え』だよ。」
(上村は橋本の手をぎゅっと握りしめる。橋本もそれに応えるように、優しく握り返す。)




