前日、ファミレスにて
旅行前日。勤務終了時刻をわずかに過ぎた頃の女子更衣室。
ロッカーを閉めた上村美優巡査長は、バッグを肩にかけようとしたところで、ちょうど制服を脱ぎ始めた
橋本彩花巡査と鉢合わせた。
上村美優: 「あ、橋本巡査!」
橋本彩花: 「上村巡査長、お疲れ様です。……巡査長が定時で上がれるなんて、本当に珍しいですね。」
橋本の言葉に、上村は少し照れたような、気まずいような表情を浮かべた。
上村美優: 「そ、そうだよ…。あの広域事件の書類整理が、昨日中にすべて片付いたからな。橋本巡査も、今日は残業なしなのか?」
橋本彩花: 「はい、私も今日は、地域課の報告書を予定通り終えることができました。」
数秒の沈黙が流れる。お互い、次の言葉を待っていることを知っていた。
上村美優: 「……橋本巡査。このあと、もし時間があったら、夕食、一緒に行かないか? 明日からの旅行に向けて、最後の打ち合わせも兼ねて。」
橋本彩花: (顔いっぱいに笑顔を広げて)「良いですね! もちろん、行きましょう! 上村巡査長の奢りで(笑い)。」
上村美優: 「それは……ダメです(苦笑)。明日から旅行で、贅沢をする予定なんだから、今日のところは割り勘で我慢してくれ。」
橋本彩花: 「えー、残念(笑)。でも、ありがとうございます。すぐに着替えますね!」
・・・・・・
制服から私服に着替えた二人は、署から少し離れたファミリーレストランの一角に座っていた。静かなカフェとは違い、賑やかなファミレスの雰囲気が、かえって二人の緊張を解きほぐした。
橋本彩花: 「あーあ、制服を脱いで、こうして美優と座っているだけで、本当に解放された気分です。この一週間、毎日ショートメールを交わすのが唯一の楽しみでしたよ。」
上村美優: 「全く同感だよ。あの忙しさ、本当に心が折れそうだった。特に、捜査本部の会議で、連日怒鳴り声を聞いていると、『自分は一体何のためにここにいるんだろう』って、一瞬だけ自問自答してしまうよ。」
橋本彩花: 「分かります。私も、市民からの苦情や、理不尽な要求に、笑顔で対応し続けるのが辛くて……家に帰って、ベッドに倒れこんだまま、『明日も制服を着なきゃいけないんだ』って、動けなくなることがありました・・・」
上村美優: 「そういう辛い気持ちを、誰にも話せないのが、この仕事のね。でも、今日はもう大丈夫。その愚痴と苦悩は、明日からの温泉旅行で全部洗い流してしまおう。」
橋本彩花: 「はい! もう、明日が楽しみで仕方ありません! 往きのコンパートメントで、まずは何を話しましょうか? 私は、あの時『話せなかったこと』全部を、美優にぶつけますからね!」
上村美優: 「望むところだ。私も、『素の美優』として、彩花に話したいことが山ほどある。そして、離れの部屋で、心ゆくまで『素の彩花』を堪能させてもらうよ・・・」
橋本彩花: (顔を赤らめながらも、嬉しそうに)「もう! 美優ったら……! でも、そうですね。明日からは、私たちは誰にも邪魔されない、最高の恋人同士・・・。このために、私たちは真面目に、そして一生懸命、この多忙な日々を乗り越えてきたんですものね。」
二人は目配せをして笑い合い、明日の旅行への期待を胸に、ファミレスの喧騒の中で、穏やかな夕食を楽しんだ。この束の間の安らぎが、二人の絆を一層強固なものにしていた。




