ショートメールが繋ぐ、2人の絆
次の非番の2人の1泊2日旅行の計画はバッチリまとまった。
…しかし、伊豆への一泊旅行の日取りが近づくにつれて、上村美優巡査長と橋本彩花巡査の職務上の忙しさは、一向に収まる気配を見せなかった。
「上村巡査長としての責務のある日々…。」
「橋本巡査としての責務のある日々…。」
上村は、巡査長として、署内の中核を担う責務を負っていた。大規模捜査本部のバックアップ作業は依然として続き、書類の山と、決断を要する指示出しに追われていた。日中は厳しい表情で部下を指導し、夜は資料を睨みつける。その鋼のような集中力と責任感は、署内の誰もが認めるところだったが、その心身の疲労は深刻だった。
橋本もまた、地域課の業務に加え、上村の負担を減らすべく、率先して雑務を引き受けた。市民の細かな相談から、地域のパトロールまで、一つ一つの職務を真面目に、そして丁寧に遂行する彼女の姿は、まさに地域住民の安心の象徴だった。
署内で二人が顔を合わせられるのは、せいぜいエレベーター前での数秒、あるいは廊下ですれ違う一瞬だけ。その僅かな時間で交わされるのは、「お疲れ様です」「書類、確認しました」といった、公的な言葉だけだった。
真面目な2人は黙々と遂行する日々で署内でも数分ちょっと合うぐらい・・・しかし、二人の間には、誰にも知られない秘密の通信線が敷かれていた。
毎日のように2人はショートメールを交わし、旅行までの日々を言葉で綴っていた。それは、真面目でお互い支え合う真摯な2人の間柄を表すような感じで・・・
勤務を終え、それぞれが女子寮の自室に戻った後、二人のスマートフォンでメッセージを交わし始める。その内容は、互いの真面目な関係性と、深い信頼を映し出すものだった。
【ある日のショートメール・・・】
美優 から 彩花へ
(23:45)今日も遅くまで残ってしまった。あの事件の資料、どうしても数字が合わない箇所があって。明日の午前中には解決させたい。彩花は無事に帰れたか?疲労で倒れるなよ。
彩花 から 美優へ
(23:55)大丈夫ですよ、美優。帰宅して、湯船に浸かりました。美優のデスクに置いてきた栄養ドリンク、飲みましたか?無理はしないでください。
美優 から 彩花へ
(23:58)ありがとう。飲んだ。これで明日の朝までは保つだろう。それにしても、もう少しだ。あと3日乗り切れば、温泉だ。露天風呂付きの離れで、君と心ゆくまで語り合える。それだけを思って、今は
集中している。
彩花 から 美優へ
(00:03)私もです。今、旅行ガイドブックを広げて、伊豆の夜景を見ています。美優が隣にいたら、どんなに素敵だろうって。私たち、本当に真面目ですよね。この旅行が、私たちの「頑張り証明書」になる。
美優 から 彩花へ
(00:05)くだらないジョークを言う暇もないくらい、真面目だな、私たちは。だが、それがいい。愛しているよ、彩花。しっかり休むんだ。
彩花 から 美優へ
(00:10)私も愛しています、美優。おやすみなさい。明日も、お互いの任務を全うしましょう。そして、明日の廊下ですれ違う一瞬、ちゃんと目を見てくださいね。
・・・ショートメールのやり取りは、単なる連絡手段ではない。それは、厳しい規律と重圧の中で生きる二人が、「私たちは一人ではない。必ず二人で”安らぎの場所に向かう”」という誓いを、毎日更新し合う儀式だった。
公私をきっちり分ける真面目さ、
そして、見えないところで互いの心身を気遣い合う真摯さ。
・・・この言葉の絆が、二人の女性警察官の多忙な日々を、力強く支え続けていた。
そして、いよいよ旅行前日となっていた。




