打ち合わせ専念の、非番の日
(約束の喫茶店。二人は私服姿で向かい合い、マグカップを温かい手で包んでいた。
多忙な日々の張り詰めた空気が解け、ようやく安堵の表情を見せていた。)
橋本彩花: 「美優……。本当に、今日この席に座れて良かった。一日ずれたとはいえ、無事に非番が取れて、旅行の日も確保できたなんて、奇跡みたい。」
上村美優: 「彩花……! 本当にそうだね。私はね、あの広域事件の書類整理をしている時、あまりの忙しさに、何度も泣きそうになったよ。徹夜明けで道場に指導に行った日なんか、竹刀を握る手が震えてるのが自分でも分かった。」
橋本彩花:「美優……無理してたんだね。私は、市民の方からの問い合わせ対応で、理不尽に怒鳴られたり、心無い言葉を投げつけられるたびに、『もう制服を脱ぎたい』って、何度か思った。でも、そのたびに『旅行の打ち合わせの日まで、あと〇日』って、指折り数えて耐えてたんだ。」
上村美優: 「私も同じだよ。彩花がデスクに置いてくれた栄養ドリンクを見て、『これさえ飲めば、また頑張れる』って。あの忙しさの中で、彩花とすれ違う一瞬、目線で交わす『大丈夫?』の確認が、私にとって何よりの救いだった。」
橋本彩花: 「お互い、本当に極限状態だったね。あの時、美優の『限界まで耐え忍ぶ強い意志』に、私自身も支えられていたんだよ。さすがは巡査長だなって。でも、今はもう大丈夫。私たちは、あの忙しさを、二人で一緒に乗り越えたんだ。」
上村美優: 「うん。乗り越えたね。だから、今日のこの時間は、そのご褒美…。そして、来月の旅行は、頑張った私たちへの最大の贈り物だと思おう。
・・・さあ、彩花。早速だけど、旅行の計画を立てようか。まず、電車の時間から確認しよう。」
(美優はテーブルに広げた時刻表に目を移し、彩花も笑顔でそれに頷く。激務の後の達成感と、二人きりの時間への期待が、彼らの心を温かく満たしていた。
・・・
激務を乗り越えた安堵の言葉を交わした後、美優はふと、目の前の愛しい存在への感謝が溢れるのを感じた。)
上村美優: (時刻表からふと顔を上げ、椅子越しに手を伸ばし、彩花のショートカットの頭を優しく撫でて)
「……よく頑張ったね、彩花。本当に、大変だった。これは、巡査長から巡査への、小さなご褒美だよ。」
(突然の触れ合いと、温かい労いの言葉に、彩花は目を見開いた。
・・・彼女の瞳にはみるみるうちに涙がたまり、すぐにうるうると潤んでいく。)
橋本彩花: (頭を撫でられたまま、少し俯き、震える声で)
「……美優……っ、バカっ……。急に、そんなことするから……」
(彩花は堪えきれずに、鼻をすすり、口元をキュッと結んだ。
彼女の口から出たのは、照れと感激が混ざった、小声の愛の言葉だった。
その予想外の反応に、美優も胸が熱くなるのを感じた。日頃の張り詰めた緊張が、一気に緩んだ。)
上村美優:(自分の手の温もりを感じながら、瞳を潤ませる)
「……ごめん。私も、彩花の顔を見ていたら、急に堪えきれなくなった。いつも私が巡査長として、どこ
か『正しくあらねば』って力を入れていたから……。彩花の、その素直な反応を見たら、胸がいっぱいになってしまった。」
(二人は、周りの喧騒から切り離されたように、ただ見つめ合った。制服も、階級も、職業の制約も、全てが遠のいた瞬間だった。そこにいるのは、お互いを深く尊敬し、助け合い、そして心から愛し合っている、ただの二人の女性だった。)
・・・
(橋本がそっと、テーブルの下で上村の手を握りしめる。)
橋本彩花: 「私たちは、真面目すぎるんだよね。警察官だからって、いつも凛としていなきゃいけないって。でも、美優とこうして、たった一瞬で気持ちが通じ合えるこの瞬間が、私にとって何よりの真実で……感動する。」
上村美優: 「そうだね。本当に、感動する。……この瞬間、どこからか『そんなに真面目じゃなくても良いんだよ』って、誰かの声が聞こえてきそうな気がした。」
(美優はハッとして、その声の主を思い出す。それは、先日の警察学校で、加藤警部補からかけられた温かい言葉だった。)




