期待と重圧の日々
「旅行の打ち合わせ専念の日」が確定し、二人の心には小さな光が灯った。
しかし、その日が来るまでの日々は、まるで嵐の前の静けさのように激務を極めていた。
美優は、警察学校の剣道指導で巡査長としての指導力の高さを評価され、追加で要請が続いた。竹刀を握る時間は増えたが、その一方で、署内では広域で発生した重大事件の捜査本部バックアップ要員に抜擢されていた。
美優の任務は、膨大な量の証拠や供述を分析し、捜査員たちが現場で動きやすいよう、必要な情報の抽出と整理を行うこと。剣道で培った集中力と精密な洞察力が試される、重圧のかかる仕事だった。
定時で帰れる日はほとんどなく、デスクのライトだけが灯る深夜の署内で、美優は珈琲を片手に資料と向き合い続けていた。
美優の凛とした表情の奥には、疲労の色が濃く滲んでいたが、脳裏に浮かぶのは、次に彩花と会って旅行の計画を立てる日のことだった。
彩花もまた、地域課の本来の業務に加えて、美優と同じく捜査本部のバックアップに駆り出されていた。彩花の担当は、事件に関連する市民からの問い合わせ窓口や、地道な情報収集の整理だ。細やかな気配りが必要とされる業務であり、一日に何十件もの問い合わせに対応する中で、精神的な疲労が蓄積していく。
二人とも連日の残業で、休憩時間を合わせるわずかな時間さえも取れない日が続いた。エレベーターで一瞬すれ違うのが精一杯の日もあった。しかし、そのわずかな瞬間でも、二人は目線で互いの無事を確かめ合っていた。
美優は、彩花がふと疲れた顔を見せるたび、心の中で「無理をするな」と語りかける。橋本は、上村のデスクに置かれた珈琲のカップが深夜まで空にならないのを見つけるたびに、こっそりと栄養ドリンクをデスクの端に置いて立ち去った。
二人にとって、この厳しい多忙な日々を乗り越えるための唯一の支えは、「旅行の打ち合わせ専念の日」という小さな約束だった。
「この地獄のような忙しさを乗り越えれば、二人きりの特別な時間が待っている」
その強い思いだけが、制服の重みと疲労に耐え、彼女たちを支え続けていた。
しかし、多忙により、結局、旅行の打ち合わせ専念の日は1日ずれることとなった。
とはいえ、1日ずれたとはいえ、無事に非番の日が取れ、そして、旅行の日も無事に非番になる予定がついていた。
打ち合わせ専念の日、開口一番は鳴きそうになった日々への感想だった。




