小さな空間
任務当日。二人で警察学校に向かうこととなった。
署の駐車場に停められた、年季の入ったミニパトのお下がりの業務車両。
上村がハンドルを握り、助手席には橋本が座っている。二人とも制服姿だが、防具や道着は後部座席に積んである。署から警察学校までは、約30分の道のりだ。
上村美優: 「うーん、この車、クーラーの効きが悪い。彩花、暑くない?」
橋本彩花: 「大丈夫です、巡査長。懐かしい匂いがしますね、この内装。新人の頃のパトロールを思い出します。あ、そういえば、指導内容の件ですが、巡査長が『打ち込み稽古』で気をつける点として挙げられていた『中心の取り方』について、もう一度確認したいのですが。」
上村美優:「ああ、それね。特に『攻め』を意識させる時に、どうしても手元が浮きがちになる訓練生が多いから……。(信号待ちで停車し、橋本の方を向く)相手の中心を奪うということは、剣道だけでなく、日々の職務においても重要だ。相手の意図を正確に読み取り、先んじて動く。そのためには、常に冷静な『観察眼』が必要になる。」
橋本彩花: 「なるほど……。それは、私たちが普段、容疑者や被疑者と対峙する時にも通じるものがありますね。相手の小さな変化を見逃さない、ということですね。」
上村美優: 「まさにそうだ。剣道の稽古を通して、そういう洞察力も養ってほしい。
……あ、そういえば、彩花。例の温泉旅館、どうだった? 予約、取れそう?」
橋本彩花: (顔を輝かせて)「ええ! なんとか! 来月の非番に合わせて、露天風呂付きの部屋が奇跡的に空いてたんです! しかも、二人きりでゆっくり過ごせる、離れ形式の部屋で! ふふ、これで、誰にも邪魔されない、私たちだけの時間が確保できました!」
上村美優: 「っ! 本当か!? よかった……! それは朗報だ! また明日から、仕事に精が出そうだよ。これで、頑張る理由がまた一つ増えた。」
橋本彩花: 「はい! 私もです! そのために、今日の指導もバッ…いや、真剣に務めさせていただきます!」
(二人は嬉しそうに微笑み合い、目的地までのわずかな時間を、公私にわたる会話で埋めていく。
古びた業務車両が、二人の秘密の空間となっていた。)




