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空架ケル虹の彼方 -Unlimited Longing-  作者: 山並萌緩
イェソド大陸-研究都市ノーティア

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85/85

#85「スズネの弱点」

「...さて、ここまでの話は余談に過ぎない。スズネ、君の課題となっている"造形"について話を戻そうか。」


......そうだ、元の話は私の"造形"についてだ。


シオンは、アンリの"圧縮"と"解放"がセットになっている無意識下の動作が、私の"造形"にも当てはまると言っていた。

ここまでの話から察するに、今説明してもらった基底動作とは別に、私は昨日の戦いで"造形"を使っていたということになるのだと思う。


「...うん。......じゃあ、私は『基底動作』以外でいつ"造形"を使っていたの?」

条件を加えて改めて問う。


シオンが基底動作の話をしたのは、私の質問に()()に答えたため。だから、そこに基底動作以外と加えれば、私の課題となる"造形"の扱いについてが見えてくるはずだ。


「ふふ、その質問であれば君が最初に求めた答えを与えられるね。」


シオンの反応からも、私の推測が裏付けられる。


「君が昨日の戦いの中、無意識下で"造形"を使っていた瞬間、それは――"減衰"を発動した時だ。」


「"減衰"を......」

私が昨日のエイリさんとの戦いで"減衰"を使ったのは、最後の......


「そう、君がエイリに降参を口にさせる決め手になった時だね。」


やっぱり、あの時......。


「あの瞬間、君はエイリの手を介してその体へ<静謐>のオーラを流し込み、"減衰"によって体の自由を奪おうと考えた。そうだろう?」


「...うん。」


あの時の私の狙いは、まさにシオンが言った通りだ。

...ただ、私の<静謐>のオーラは、エイリさんの手から腕にかけてを"減衰"するに留まった。そこより先へ"減衰"の力を伝える前にエイリさんから「降参」の言葉が発せられたためだ。


だから、あの一連の流れはほんの僅かな時間だったはず......。それにも関わらず、私はその僅かな時間の中で"造形"を使っていたとシオンは言っているのだろうか...?


「君の<静謐>のオーラは、刀を受け止められたと認識すると同時に瞬間的にエイリの手から腕へ広がり、()()()()。」


......?

「それは、エイリさんの降参を聞いたから......」


「いや、すまない。正確には止まったのは()()だ。君がエイリの降参を聞く前のね。」


............一瞬、止まった......?

......いや...もしかして――


「――オーラの流れが()()()()()()......?」


「その通りだよ。」

「.........!」


思い当たって呟いた私の()()が肯定される。


「君のオーラは、流し込み始めた瞬間こそ勢いよくその影響範囲を広げたが、その一瞬後にはその勢いが止まり、改めてその影響範囲を広げようとした時の勢いは、比べものにならない程僅かなものとなっていた。」


......これが、私の弱点...。

私が<静謐>のオーラを扱う時、最初の一瞬こそ、すぐに"減衰"を発動出来るくらいの影響範囲へ広げることが出来るが、その影響範囲を相手の体全体へと広げるには時間が掛かってしまい、上手くいく事が少ない。


これは私のオーラがまだ弱いから起きることなのだと思っていたけど......まさか.........


「...そこに"造形"が......?」


「ああ、君が"減衰"を発動する時は、無意識にその影響範囲を"造形"してしまい、それ以上に広げる力の妨げとなってしまっている。」


「.........!!」

それが、私の弱点の正体......!


シオンの口からはあっさりと告げられることになったが、私にとってはまたも今までの認識が大きく変わるものだった。


つまり、私が<静謐>のオーラを相手の体へ流し込む時、勢いを一部分までしか維持出来ないのは、単純な力不足ではなく......無意識下で発生していた"造形"のせいということ...。


「......じゃあ、"造形"を上手く扱えるようになれば、私のオーラの影響範囲も広がるの...?」


そう出来るのならば、それは私にとって大きな力となるはずだ。


......何より真っ先に思い出される失敗...。村から旅立つ前の戦いで、あの猪の体全体へ"減衰"の力を与えられず......アンリに全力を出させ...無理をさせてしまったこと......。


......そんな失敗をもうしなくて済む、ということなのだから。


「『オーラの影響範囲が広がる』という訳ではないね。いくら"造形"を極めても、それだけで君のオーラの絶対量が変わるわけじゃない。」


「え......」


「だが、適切な"造形"が出来れば、()()()()()()()()()()()()()()()事は出来る。」


「...!それは、どうやって...!?」


一瞬否定されたのかと思ったが、方法はあるらしい...!


「...昨日の君のオーラは、エイリの手から腕にかけての体積そのままの形で"造形"されていた。だが、相手の体の動きを"減衰"するためにはそこまでする必要はないんだ。力を生み出している筋肉......それを相手の動作に合わせて適切に"減衰"出来れば、より少ないオーラで体の動きを抑制することが出来るし、余ったオーラを別の体の部位まで"造形"し伝えることも出来る。――だから、能力の影響範囲は相対的に広げることが出来るという訳だ。」


「ーーなるほど......!」


私が扱っていた"減衰"は、()()()()()()()......!


「"造形"を上手く使えれば、"減衰"を効率良く扱える......!」


「そうとも。これが君が課題とすべき"造形"だよ。」


「うん......!」


これで私もアンリも、シオンに示した「課題」の方向性が明確になった。

次は――


「次は、どうこの課題と向き合うかだが―――」

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