#82「修行」
「それじゃあ、ワシは早速出掛けて来る!シオン、後は任せたぞ!」
やけにテンションの高いおじいちゃんが、階段を上がり地下を出ていく。
「ああ...分かってるよ。いってらっしゃい。」
シオンはおじいちゃんの外出の目的が分かっているようだ。
「おじいちゃんどこに行くの?」
アンリが疑問をシオンに投げる。
...おそらく、今言っていた「当て」のところなんだろうけど......
「ああ、そのうち分かるから気にしないでくれ。」
「えー?」
......そうはいっても、アンリにとって...私にとっても、この件は重要な問題だ。
「...ねえ、シオン。おじいちゃんが言っていた『当て』っていうのでアンリの症状がなんとかなるんだよね...?おじいちゃんはそのために出掛けたんでしょ...?」
さっきのおじいちゃんの宣言は自信に溢れたものではあったが、やはり具体的なことが分からないままでは不安になる。
「...そうだね。先生が向かったのは、アンリの症状を調べるための専門家の元だ。」
「専門家......。」
その人に会えればアンリの症状を治せる...?
「だから、今は気にせず待っていてほしい。...この件については、私はもちろん先生も分野外でね、下手に手出しをするのは憚られるんだ。」
それで、詳しい話をしてもらえないの...?
......正直にいえば、すぐにでも詳細を話してもらいたいけど......。
それでも、今まで何も分からなかったことに治す可能性があらわれた以上、大きな進歩なのは間違いない。
「...そっか、わかった。」
だから、今はこれ以上の追究はよそう...。
...きっと、おじいちゃんが何とかしてくれる。
「うん、すまないね。」
「ううん、シオンが謝ることじゃないよ。」
おじいちゃんもシオンもアンリのために動いてくれてるんだから。
「...うん、ありがとう。アンリもそれでいいかな?」
「うん!わたしは大丈夫だよ!」
「ふふ、そうか。」
......自分の体のことだというのにアンリは気にもしてない様子だ。
この危機感の無さは、私にとっては不安の種ではあるんだけど......。
...それでも、アンリが不安がってしまうよりはよほどいいとも思っている。
.........不安に怯えるアンリの顔はもう見たくないから。
「――それじゃあこの話はここまでにしよう。次は君たちの本題に入らないといけないからね。」
シオンの発言で、話題と共に場の空気が切り替わる。
「わたしたちの本題って?」
「忘れたかい?君たちがここへ来たのはオーラの扱いを学び、より強くなる為だろう。」
「...!忘れてないよ!」
...そうだ、私たちの目的はそこにあった。
昨日、騎士団の訓練所に行ってシオンにオーラの扱いを見てもらったのもそのためなのだから。
「ふふ、だから今からは修業の時間だ...!」
「修業......?」
「修業...!!」
...要するに鍛錬と同じことだと思うが、アンリが好きそうな単語だ。
「昨日見せてもらったオーラの扱いから課題を得た。君たちには、それに取り組んでもらう。」
課題か...。
シオンの"知覚"によって、私たちのオーラに欠点や伸ばす点が見つかったんだろう。
きっと、私たちが強くなるために必要なことが得られるはずだ。
「課題ってどんなの...!?」
修業という単語に惹かれてか、アンリはすでにワクワクした様子だ。
「結論から言えば君たちには形質変化...特にアンリは"圧縮"、スズネは"造形"の扱いを極めてもらいたい。」
「「...!」」
どちらもアンリの<壮烈>のオーラと共に相談しようと思っていたことだった。
アンリも私も昨日の戦いの中で使っていないものだけど、どうして......。
「シオンちゃん、わたし"圧縮"が使えるようになるの...?」
「...いや、むしろ私としては使っていないことが不思議だったんだ。あそこまで<強靭>のオーラを使いこなす君が、対応する形質変化である"圧縮"を使えない訳がない。...今まで使おうとしたことが無かったのかい?」
......なるほど、使っていなかったからこそ「課題」と...。
でも、アンリは......
「わたし、"圧縮"を上手く使えないんだよね。使おうとすると失敗しちゃって...」
「失敗......?」
「うん...。...あ、そうだ!見ててね!」
そう言うとアンリは、祈りを捧げるように手を組み――
「んーー!!」
――両手に力を込め、オーラを手の間に集める。
「...!できた―――」
嬉しそうに手を開け、現れたのは、指先で摘めるほどの小さなオーラの結晶体。
だけど――
―――ボンッ!
「ぅわっ...!?」
一瞬姿を見せた結晶体は弾け飛び、シオンが小さく声を上げる。
「い、今のは......」
「"圧縮"をしようとするといっつもこうやって失敗しちゃうんだ...。」
......そう、これまでもアンリが"圧縮"を習得しようとしたことはある。だが、その度に今のように結晶体が弾け飛び、消失するため、アンリは"圧縮"に対して苦手意識を持っていた。
「いや......今のは失敗したわけじゃない...。」
「「え...?」」
失敗じゃない......?




