#80「アンリの<壮烈>」
「今日は地下室に行く。」
「地下?」
昨日、騎士団の訓練所から帰って来てから一晩が経ち、私たちは新しい朝を迎えていた。
今朝も寝起きの実験を終え、今は朝食のシリアルを食べながらアンリに今日は何をするのかと問われていたところだ。
「んぐんぐ...ゴクン......。...ああ、この家には一階の下にもう一つ階層がある。」
「え!?ホント...!?」
アンリの目が輝く。
...わかるぞ、いいよな地下。秘密基地みたいで。
ガチャ
アンリとのそんなやりとりの最中、書斎の扉が開いた。
「ただいま、戻ったぞー。」
「あ、おかえりー!スズネちゃん!おじいちゃん!」
「うん、ただいま。」
「シオンも流石に起きとったか。」
「おふぁえり。」
アンリの話によれば、私が起きてくる前に二人は買い出しに出たのだそう。
そのため留守番をしていたアンリと朝食の席を共にすることになった。
「スズネ、買ってきた荷物はキッチンの方へ運んどいとくれ。」
「うん、分かった。」
先生の言葉に従いキッチンへ続く扉へ向かうスズネ。
そしてその後を追うように、立ち上がったアンリがスズネの元へ向かう。
「ねぇねぇスズネちゃん!」
「どうしたの?アンリ。」
「この家、地下室があるんだって!」
「地下?」
つい先程のやりとりを繰り返すように二人が話す。
「んぐんぐ...ゴクン......。」
シリアルの最後の一口を飲み込む。
「ちょうど役者も揃ったことだ、さっそく行こうか――地下室へ。」
―――。
「おぉ......!広い...!」
一階から長い階段を降りてやってきたのは、約10m四方、高さ5m程の石造りの壁に囲まれた空間。
この部屋は確かに広いが、長い丸太がいくつか転がっているくらいで他には何もない。
「広い...けど、ここで何をするの?」
スズネの疑問はもっともだ。特に説明をせずに連れてきたからな。
「ここに来たのは、アンリのオーラを見るためだ。」
「わたし?」
「それは昨日やったんじゃ...?」
それももっともな疑問だ。
昨日はそのために訓練所まで赴いたのだからな。
だが......
「今日見るのは、アンリの<壮烈>のオーラじゃよ。」
「「!」」
私に続くように捕捉をした先生の言葉に、二人が驚いた様子を見せる。
「...ここへ来た時のお主らの話でも言っておったが、ワシらはアンリが<壮烈>のオーラを使った時のことを知っておった。」
そう、アンリが<壮烈>のオーラを使った直後...気絶をするという特殊な事例のことを私たちは知っていた。
「そうだったの!?」
「うむ。そもそも、お主らがここへ来たこと自体、アンリの体質を調べる意味もあったんじゃ。ナデルとエリナ......お主らの両親に頼まれての。」
「......お父さんとお母さんが...。」
......私も読ませてもらった手紙では、そちらが主目的であるとすら読み取れた。
「じゃからアンリ、お主が<壮烈>のオーラを扱うところを見せてもらいたい。......ええかの?」
「いいよ!」
「...!」
...あっさりとした承諾に少し驚く。
使用後に気絶...もしくは最小限に出力量を抑えても体の硬直は発生する......、という話だったので多少なりとも抵抗のある行為なのだと思っていたが、アンリは特に気にしている様子ではない。
むしろ......
「......アンリ、無理はしないでね...?」
「うん、大丈夫だよスズネちゃん」
スズネの方が不安げだ。
「......あ、でも全力でやらなくても大丈夫かな...?」
「え...」
アンリが疑問を口にする。
...詳しく調べる以上は、出力量の違いも観測するべきではある、が......。
「大丈夫じゃよ、あくまで見たいのは扱った時の状態じゃ。......気を失うということがわかっとる以上、そこまでの無理はさせんから安心せえ。」
「うん、ありがとうおじいちゃん!」
「よかった......。」
今回はアンリの安全を優先する、という話を事前に先生としていた。
扱った直後に気絶するなどそもそもが他に類を見ない事例だ、何をどこまで調べるべきかが分かるまでは調査は慎重に行うべきという結論に至るのは自然な話とも言える。
「それと、オーラを見せるための攻撃対象は、そこらに転がっとる丸太を使っとくれ。」
「...壊しちゃうと思うけど、大丈夫?」
アンリが心配する。
丸太の強度は簡単に壊れるようなものではないが、"破壊"の能力を持つ<壮烈>のオーラを当てられれば壊れるのは必然だろう。
「ええんじゃよ。...というか、元々はワシが用意したものでもないしのぉ...。」
「そうなの?」
「ああ、その丸太たちは、昔お主らのお母さんが持ち込んだものなんじゃ。」
「お母さんが...!?」
「ここは元々、オーラの力の検証をする時に被害や騒音を周りに出さない為に作った場所なんじゃが......エリナのヤツにここを使わせたら修練に使うと持ち込みおってのぉ...。じゃから、気にせず壊してくれて構わんぞ。」
「そっか...!」
......母が使っていたものと聞き、アンリは嬉しそうな様子だ。
そのまま丸太はアンリの手によって部屋の中心に設置される。
「もうやってもいーい?」
「うむ、好きなタイミングで構わんよ。......ではシオン、よろしくの。」
アンリに返事をした先生が私へ言葉をかけてきた。
「ああ。」
アンリのオーラを視るのは私の役目だ――。




