#79「帰宅」
「ありがとう、納得がいったよ。」
私の問いに対し答えてくれたエイリに礼を伝えた――
コンコン
――所で、教室の扉からノックの音が響く。
ガラララ
扉を開けて入ってきたのは、クラウス教官だ。
「シオン先生ぇ!!!授業の調子はどうだ!!?」
うるさ......
「......ああ、問題ないよ。ちょうど今キリが着いたところだ。」
授業として伝えたかったことは伝えられているし、スズネと私の疑問にもそれぞれ解が得られている。
「なにぃ!!?訓練が一段落したから、私もシオン先生の勇姿を拝みに来たというのに!!一足遅かったか......!!」
...どうやら、クラウス教官の目的は私の授業だったようだ。
「ドンマイ!教官!」
「ぐぅ...!!」
ヒーナの慰めにより一層悔しがる様子の教官。
「そう残念がることでもないだろう?教官の立場であるあなたには、私の授業で得られるものなど無いのだから。」
とはいえ、たぶん......
「違う!私は、教壇に立ち、立派に授業をやり遂げるシオン先生を見に来たのだぁ......!!」
......こういうことだ。
過保護...というのは少し違うかもしれないが、なんというかこの人は私に大分甘い。
まあ、目をかけて貰えているのは感謝すべきことではあるんだがな...。
「教官!シオン先生は、立派に授業をやり遂げておられました!」
「そうだな。シオン先生は俺たちが扱うオーラについて詳しく説明してくれた。その姿は立派であったと思います。」
......そんなに大したことをした訳でもないのに、立派立派と持て囃されるのはなんとも面映ゆい...。
「はい!わたしも!シオンちゃんは立派でした!!」
アンリまで便乗を......。
「え、あ、じゃあ私もそう思いました。」
スズネまで.........
いや、まて「じゃあ」とはなんだ。
「くぅ...!!ここまで言われるとは、さぞ立派だったのだろうなぁ......!!......スヴェート!チェーニ!」
「「はっ!」」
教官の声を受け、ヒーナとエイリが立ち上がる。
「お前たちにシオン先生の授業をレポートにまとめる課題を与える!!」
「へ...!?」
「ぬ...!?」
教官の課題の言いつけに、二人が驚きの声を上げる。
......表情はとても嫌そうだ。
「お前たちが、シオン先生から学んだことを確認せねばならんからな!」
「ちょっと!それ教官が知りたいだけじゃないんですか!?」
「何を言う?もちろんそれもあるが、お前たち訓練騎士の学習度を管理するのも私の役目。だから、これも訓練の内というわけだ!」
「そ、そんなぁ〜......。」
ヒーナが落胆し、項垂れる。
「......教官、レポートはヒーナとの共同作成でもいいでしょうか?」
「ん?......まあ、構わんが...。」
「よっし!ナイスエイリ!」
「ああ、これで作成時間は半分だ。」
「...私はたまに、お前たちに騎士団の未来を託していいか不安になる......。」
エイリの提案が許可されたことで、二人の表情が明るくなったが、それとは逆に教官はげんなりした様子だ。
......しかし、レポートの作成時間とはそんな単純なものだろうか......。
「...ねえ、スズネちゃん。レポートって何かな...?」
「......。...たしか、学んだことや自分の考えたことを文章でまとめる...みたいなものだったと思うよ。」
「...わぁ...、大変そう...!」
会話の邪魔にならないようにしたのか、アンリが口元に手を当てて、ヒソヒソ風にスズネと話している。
まあ全部聞こえていた上に、スズネは特に気にせず話しているようだが。
「そうなの!大変なんだよー!」
「全くだ......。」
......本当に嫌そうだな。レポートに何か嫌な思い出でもあるのだろうか。
「そういうことなら、私たちはそろそろお暇しようか。」
「なにっ!?もう帰ってしまわれるのか!?」
「えー!?」
私の言葉を聞いた教官に続き、アンリも反応する。
「ああ、今日の目的はすでに果たしているしね。」
「むぅ...、そうか......。」
「心配せずともまた近いうちに来るさ。オーラの実力を高めるには実戦が一番......そうだろう?」
スズネとアンリが力をつけるためにこの場所ほど適した環境は無いしな。
「...うむ、そうだな...!!貴殿らの来訪はうちのひよっこ共にとってもいい刺激となってくれるだろう!!」
「また来ていいの...?」
「もちろんだとも!!」
「やったー!」
再度の来訪を約束され喜ぶアンリ。
それほどこの場所が気に入ったんだろうか?
「アンリちゃん!次来た時はまた勝負しようね!」
「うん!今度は勝つよ!」
ヒーナとの再戦の約束も取り付けている。
さっきは途中で止めてしまったしな。
「では、帰るとしよう。行こうか、スズネ、アンリ。」
「うん!」
「うん。」
――その後、訓練所の入り口まで見送られた私たちは、家への帰路に着くことになった。




