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空架ケル虹の彼方 -Unlimited Longing-  作者: 山並萌緩
イェソド大陸-研究都市ノーティア

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#73「訓練騎士」

「スズネちゃんすごーーい!!」


勝負を制したスズネへ、アンリが走っていき......抱きついた。


「わっ...!......あ...♡アンリ......♡」


......一瞬で顔がふやけたな。

先ほどまでの戦いで見せていた表情とは天と地の差だ。


「シオン先生、俺は役目を果たせただろうか?」

たった今、スズネとの戦いで降参を宣言したエイリがこちらへ歩いて来た。


「ああ、十分だったとも。見事な戦いだった。」

「そうか。それならば良かった。」


実際、二人が見せた接戦からは多くのことを確認できた。

スズネ...彼女が扱うオーラは、すでに中々の練度であると言っていい。それを引き出したエイリの戦闘の実力も相当なものであったと言えるだろう。


「よし。では、二人もこちらへ来てくれ。」


私の言葉でスズネとアンリもこちらへ来る。

今の戦いを私の近くで見ていたヒーナも加え、私の前に四人が横並びになった。


「まずは、ヒーナ、エイリ。今回は手を貸してくれてありがとう。」

今回のことはやや突発的であったし、タイミング悪く訓練所の人間が入れ替わる時期でもあった。

教官からの指示というのもあるだろうが、快く受けてくれた二人には感謝しなくては。


「え!?いやいや、私も楽しかったし!」

「ああ。彼女たちとの戦いは俺たちにとっても貴重な経験だ。感謝をするのはこちらだろう。」

「...ふふふ、そうかい?」


そう言ってもらえるのはありがたい。


「あ、あの...!私たちからも、ありがとうございます...!」

「ありがとう!ヒーナちゃん楽しかったよ!」

スズネとアンリからも礼の言葉が出る。


「それこそ、こちらこそだよ!私と戦ってくれてありがとう!アンリちゃん!」

「...ああ、そうだな。スズネ、お前との戦いはいい経験になった。礼を言う。」


...みんな互いに礼を言い合っている。

これが昨日の敵は今日の友...というやつだろうか。


......いや、別に敵ではないから違うな。

うん、まあいいか。


「こほん。」

咳払いを一つ。


四人の視線がこちらに向く。

「そろそろ本題に入ろう。...まずはアンリ。」

「はい!」

元気な返事が響く。

別に手は上げなくていいんだがな。


「君は<強靭>による"増強"の扱いがピカイチだ。特に身体の動きに合わせた瞬発力の強化は、適切な箇所への力の集中が出来ていて、ほとんど無駄の無い素晴らしいものだった。」

「えへへ...。」


これで、()()()()とするオーラが別にあるというのだから驚かされる。

......だが、その()()()()()については追々触れていくとしよう。


「次にスズネ。」

「はい...!」

「君のオーラの練度はすでに高いレベルに達している。<静謐>と<叡智>を併用し、"吸着"の形質変化まで扱えていたことを考えれば、彼ら訓練騎士(スクワイア)の卒業ラインに届いていると言っても差し支えないだろう。」


「え!?スズネちゃんすっごいねー!どうりでエイリが手も足も出ない訳だ!」

「そうだな。自分の未熟さをよく理解できた。」

「え...!?いや、そんな...!私もギリギリでしたし...!」

二人の賞賛にスズネが謙遜する。


だが、エイリがオーラの練度に秀でていたスズネと接戦を繰り広げたのは事実だ。

さすが、戦闘訓練を受けている訓練騎士(スクワイア)といったところか。


「ねえ、シオンちゃん...!」

「ん?」

「スクワイアってなぁに...!?」

アンリに少し興奮気味に尋ねられる。

...ふふふ、わかるぞ。言葉の響きがカッコいいものな...!


「...訓練騎士(スクワイア)というのは、俺たちのように騎士になる訓練を受けている者のことだ。」

私の代わりにエイリが答え始めた。


「俺たち訓練騎士(スクワイア)は、王国で騎士の訓練を受け、肉体と精神の成熟を認められた者がこのノーティアでのオーラ習得の訓練を許される。そして、オーラの力を扱えるようになったものが、正式な騎士...虹曜騎士(ナイト)となることを許されるんだ。」


「へぇ...!カッコいい...!」

アンリが目を輝かせている。

彼女とは趣味が合うのかもしれない。


「まあ、私たちの前には訓練騎士(スクワイア)以外もいたんだけどね?」

ヒーナがやや得意げに話す。

...以外というと......

「...ん、それはアリスのことかい?」


「アリス...?」

「そう!『イタズラ大好きアリス様』!何を隠そう、私たちの国の第3王女なんです!」


...彼女たちと入れ替わる前の代、つい先月まで彼女...アリスはこのノーティアにいた。


「私もあと1年早くここに来れてたら一緒に訓練できたのになぁ〜」


「王女...様?が訓練を受けるんですか...?」

「ああ。俺たちの国、セプタルクムでは王族にも力が求められるからな、代々王家の者が騎士の訓練を受けるしきたりがあるんだ。...特にアリス様は、幼少の頃からオーラの力に秀でていたと聞く。ここでも、さぞ立派に訓練へ励まれていたことだろう。」

スズネの疑問にエイリが答える。


「...そうだね。...アリスは本当にすごい力を持っていたよ。」


......彼女はここに来た時点で複数のオーラを扱い、形質変化も使いこなしていた。

...そしてなにより驚くべきことは、彼女も<夢想>のオーラを扱えたということだ。


「そうなの!アリス様は、そのすごいオーラの力で小さい頃からイタズラばかりしててね!でも、いつも楽しそうな笑顔を振りまいてくれて、国民から愛されてるの!」

「そ、そうなんですか...。」

早口で捲し立てるヒーナにスズネがたじろいでいる。


...たしかに、アリスはイタズラ好きでありながら、教官や訓練騎士(スクワイア)たちに好かれていたようだし、仲良くさせてもらっていた私も彼女にいい印象を抱いていたのは間違いない。


......だが、なぜだろうな。

彼女と接する中で時折、底知れない何かを感じたのは......。

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