#72「接戦」
抜刀......。
シオンの合図とともに刀を抜いた。
「............。」
刀にオーラを込めて構え、...様子を窺う。
......リーチだけならこっちの方が有利だけど...。
「......。」
切先をこちらに向けてナイフを構えるエイリさんは、体を真横にしてナイフを構えた右手の後ろに隠している......。
......どこから打ち込んでも対応されてしまう気がするような構えだ...。
...それに、さっきのヒーナさんが見せたアレのこともある。
下手に間合いに入るのは危険かもしれない...。
「............。」
「......。」
......互いに睨み合う膠着状態が続く...。
.....................。
..............。
......。
―――タッ――!
――先に動いたのは私......!
「――はぁっ...!!」
右手で持った刀を、左下から振り上げる......!
――狙うのは、ナイフ......!
「......!」
ガギンッ!
ぶつかり合った刀とナイフが、鈍い金属音を響かせる。
――よし...!
このまま、刀に乗せたオーラを使って――
「.........っ」
――"吸着"――
「―――ぇ」
――しようとした瞬間、私の体は振り上げた刀と共に前へ落ちていく......!
というか、エイリさんが消えて――!?
カラン
――いや違う...!
視線を下に落とす――
「足元がおざなりだ...!」
――エイリさんは身を屈め、体勢を崩した私の体へ蹴りを――
「――くっ......!!」
瞬時に振り上げている刀を地面に叩きつけ――
シュバッ
――それを支えに、跳ぶ...!!
「――――。」
跳び上がって、一瞬捉えた視界で状況を確認する。
......ナイフが落ちている...。
...まさか、エイリさんはナイフを離して......!?
私の刀と打ち合った直後、私がナイフを"吸着"しようとしたあの瞬間にナイフを離したんだ...!
だから、体重を乗せていた私の体は、支えを失って前へ......!
シュタッ
跳び上がったまま、刀の切先を中心に空中で弧を描いた私の体は、刀の向こう側へ着地する......
......エイリさんに背を向けて......!
ガギンッ!!
――瞬時に振り向いて刀を振り抜けば、そこにはエイリさんが眼前に迫っていた...!!
当然、ナイフを再び手にしている......!
「......っ...!」
「......。」
......どうする...!?
私の目標は、"吸着"でナイフの動きを止めつつ、ナイフ経由でエイリさんの体に<静謐>のオーラの"減衰"の力を流し込むことだった。
...だが、ナイフを離されて避けられてしまっては......。
......いや、
「.........っ」
刀にかける力を下向きに......!
これで大勢を崩されても、下向きに振り抜ける...!
そして、動かないのなら......このまま、オーラを流し込めば......!!
「ふんっ.........!!」
「.........!!」
「――!?」
――エイリさんの体が、私の刀の下を潜るように落ちていく......!
くっ...!今度はナイフを持ったまま...!
いや、だけどこのまま、下に力を入れて地面へ叩きつけ―――!?
ジジジジッ
――刀は、受け止められているナイフの上を滑るように徐々に上へ......!!
「.........ハッ...!」
――僅かに見えるっ......!!
ナイフから溢れた藍色の光――<蠱惑>のオーラ......!!
あれで、私の力の方向が"歪曲"されてる......!!
ケントルアであの少年が見せたほどの強い力は無いが、この状況で力の方向を僅かにでもずらされるのはマズい......!
――!いや、違う――
「――っはぁっ――!!」
――ここで"吸着"...!!!
「―――ぬっ......!?」
力の方向を上へと少しずらされていた私の刀は、ナイフを"吸着"したままそれを握るエイリさんごと、前方へ振り抜かれる......!
――捕らえた......!
これでナイフを握り続けるなら、<静謐>のオーラを流し込む...!
ナイフを離すのなら、刀を振り下ろす......!!
バッ...!
やっぱり、離した......!!
「――せやぁッ!!」
――パァン!!
「!!」
振り下ろした刀をエイリさんが両手で挟み、受け止める――!
―――だけど......
...これなら、直だっ...!!!
「...!!?」
刀を挟み込む両手へ<静謐>のオーラを流し込み―――
「――降参だ。」
「......!」
その言葉が聞こえて、咄嗟に刀にかけていた力を抜く。
...私の刀が完全に停止すると、エイリさんは刀から手を離し立ち上がった。
「......その刀、向けられていたのが刃の方であれば、あと数秒で俺は頭を左右に切り裂かれていたことだろう。.........俺の負けだ。」
...あ......
......私が勝った.........?




