#71「スズネの番」
次は私の番......。
さっきのアンリたちと同じように位置についた。
「お願いします。」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。」
エイリさんに挨拶をして、腰の刀を......あ。
「...あ、あの...木刀とかってありますか...?」
...今の私は真剣しか持っていないことに気づいた。
「...?...その腰のものは剣じゃないのか?」
「あ、いえ...これ真剣で......。」
「......なるほど。俺はそれで構わない。」
「...え、でも......。」
...いくらなんでも訓練で真剣を扱うのは躊躇ってしまう......。
「...変に気を使う必要はない。殺す気で来てくれ。」
「......!」
...この人は淡々と何を......
「俺の方は、このナイフを使わせてもらう。こちらは訓練用で殺傷力は無いから安心して欲しい。」
そう言ってエイリさんは、短い刃物を取り出したが......そうじゃなくて...
「......え、えっと...」
「ちょっと、エイリ!スズネちゃん困ってるじゃん!」
「む...?」
「『む...?』じゃないの!......ごめんね、スズネちゃん。今、訓練用の剣持ってくるから...!」
「あ、ありがとうございます...。」
ヒーナさんが間に入ってくれた。
どうやら、殺傷力の無い剣もあるようだ。
「待てヒーナ。」
「え、なに?」
演習場の外へ向かおうとするヒーナさんをエイリさんが呼び止める。
「彼女のあの剣...反りがあり特殊な形状をしているように見える。あの形状の剣は、訓練用のものに限らずここには無いだろう。」
「え...?......あ。......いや、そうかもだけど...。」
「それに今回のこの手合わせ、目的は彼女たちの戦い方を見るためだと聞いている。それならば扱い慣れた装備の方がいいはずだ。...そうだろう?シオン先生。」
「ふむ...それは確かにそうだが...。本当にいいのかい?」
「ああ。俺たちはいずれ戦場に出る身。刃を向けられることを恐れる訳にもいかない。」
「.........。」
戦場.........。
......シオンが言っていた、マルクトで起きている戦争のことだろうか......。
「そうか......。私としては、君たちに問題がないのであればそちらの方が好ましいが...。スズネはそれでいいかい?」
「.........」
刀という道具は、簡単に肉を断つ。
それを人に向けるということには、それなりの覚悟が必要だ......。
「......あの、この剣...刀というんですが。」
鞘から少し刀身を引き抜いて前に持ち出す。
「刃の反対側、峰の部分が切れないようになっているんです。...だから、戦う時はこちらを向くように扱います。...それでもいいですか......?」
...ケントルアでもこの方法を使った。
少なくとも、これで切り傷を負わせるようなことは無くなる。
「それでお前が戦いづらくないのなら、俺に異論はない。」
「...はい、問題ありません...!」
...「殺す気で」なんて言われてしまったから少し不安だったが、納得してもらえたみたいだ。
「......うん。二人とも問題ないようだね。...それなら、始めようか。」
シオンが私たちの真ん中に立つ。
「スズネちゃん頑張って!」
アンリが声援を送ってくれる...!
「うん...!」
さっきのアンリが戦った時に見せたヒーナさんの動き......アレと同じことをエイリさんもしてくるのかは分からないが、油断していい相手じゃないことは確かだろう......。
でも、アンリが見ているんだ、カッコ悪いところは見せたくない...!
「では二人とも。準備はいいね?」
「ああ。」
「うん。」
シオンが腕を掲げ――
「はじめ...!」
――降ろした――!




