#70「1対1の戦い」
「お願いします!」
演習場の真ん中から距離をとったところで、ヒーナちゃんと見合い挨拶をする。
「こっちこそお願いします!本気で来ていいからね、アンリちゃん...!」
「うん...!」
今から始まるのは、ヒーナちゃんと1対1の戦い。
要するに組み手と同じことだと思う。
シオンちゃんが言うには、どちらかが降参するかシオンちゃんのストップがかかるまで続けていいそうだ。
「二人とも準備はいいな?」
「「もちろん!」」
シオンちゃんの確認にわたしたちは同時に答える。
「フ...よし、」
シオンちゃんが腕を掲げ――
「はじめ――」
ズンッ
――振り下ろされると同時に地を蹴った...!
「―――!」
「ハァァッ!!」
一直線にヒーナちゃんへと向かっていき、拳の力を"増強"して――突き出す!!
ドスッ――
わたしの拳は、ヒーナちゃんのお腹に突き刺さった――
「!?」
「っ...!やるね――」
――のに、手応えをあまり感じない...!!
「――今度はこっちの――」
――!
「――番ッ!!!」
拳を受け止められてガラ空きになったわたしの下から、ヒーナちゃんの拳が飛んできた...!!
「ぐッ...――!」
お腹を拳に抉られたわたしの体は、後方へ浮き上がり――
「っ!?」
――勢いが加速した――!?
ドゴォォォォォン!!
――背中に強い衝撃が走る......!
「アンリ!!」
わたし...壁に...!?
ヒーナちゃんの拳は、わたしを少し浮き上がらせる程度には強いものであったけど......殴られた地点から壁までの5mくらいの距離を飛ばされる程じゃないはずだ......。
「......。」
壁に打ち付けられた体を引き剥がし、体勢を整える。
「アンリ、大丈夫!?」
「うん...!スズネちゃん、わたしまだやれるよ...!」
スズネちゃんの心配する声に、ヒーナちゃんへの視線を外さないまま答えた。
「ふふっ、アンリちゃん今のすっごい早かったね!私、ビックリしたよ!」
「うん...!わたしもビックリした...!」
渾身の一撃に手応えが無かったこと、そして空中で急加速したわたしの体...!
「今のどうやったの...!?」
「うふふ〜気になる〜?私に勝ったら教えてあげる!!」
「!...がんばる!!」
ズンッ
また、地を蹴った――
「――やっぱはやっ――」
――でも、今度は――
「――ぉ!?――」
――勢いを使って後ろへ回り込む!!
「――ぅおりゃっ!!」
回り込んだヒーナちゃんの背中へ、拳を打ち込み――
「ぅわっ――」
ドゴッ
――体を吹き飛ばす...!
「――ッ...!」
ドゴォォォォォン!!
――え...?
ヒーナちゃんの体が、壁に激突した。
「あたたた......」
...たしかにさっきよりは手応えがあったけど、なんであんなに......?
「あはは......失敗失敗...。」
それに、ヒーナちゃんの体......わたしの拳が届くより一瞬早く、吹き飛び始めていたような......。
「――アンリちゃんっ――」
――っ!
「――油断しちゃダメだよっ!」
思考に気を取られて、こちらに接近するヒーナちゃんに反応が遅れる――
――はやい――
――拳が迫って――
―――けど――!
ズンッ
「え――」
―――見切れる...!!
地を蹴って、振り上げられた右腕と逆の方へ跳んだ。
――そしてそのまま......!
ズンッ
着地した先で再度地を蹴り――逆方向へ...!
「――っ!!」
こちらに反応したヒーナちゃんの体が、わたしの拳を正面に捉える。
今度こそっ...!
ドスッ
拳は届いた――でもやっぱり手応えがあまり無い......!
そして――
「―――」
――またわたしの隙を狙うように拳が――
――でも、また――
ズンッ
――避ける!!
「っ――!?」
そしてまた逆方向へ――!!
当たっても手応えが無いなら――
――何度でも、当てに行く!!
―――。
「はぁ......はぁ......」
あの後もひたすらにわたしは避け、拳を振るい続けた。
だけど避けられないことが増えてきて、今もヒーナちゃんのあの拳によって壁の方へ吹き飛ばされたところだ。
......なのに、わたしの拳は一向に手応えを得られない......。
いや正確には、死角を突いた時だけは手応えがある。
だからずっとそのチャンスを狙っているけど......。
ヒーナちゃんも、それが分かっているのか中々隙を突けない...。
でも、やるしか――
「――そこまでだ。」
「え...?」
もう一度踏み込もうとした矢先、シオンちゃんの声が響く。
「えー!?なんで止めちゃうのシオン先生ー!」
「シオンちゃん!わたしもまだやりたいよ...!」
ヒーナちゃんと共にシオンちゃんへ抗議の声を上げた。
「いや、君たち放っておいたら終わりそうにないだろう......。今回はあくまで戦い方を見たいのであって、限界を見るつもりはないよ。」
......あ、そういえばそういう話だったっけ。
「えー」
ヒーナちゃんはまだ不満げだ。
「ふふふ、ヒーナ。この場において、私は先生だぞ。」
「うっ...。そうだね...分かりましたぁ...。」
「アンリもいいかい?」
「うん」
...正直に言えば、わたしもまだ続けたいけど......。
「うん。それなら次は君たちだ。準備はいいかい?スズネ。エイリ。」
「ああ。」
「う、うん。」
そっか、次はスズネちゃんの番だ!




