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#7「魔獣」

日の光は未だ昇りきっておらず、やや東の方角から照らす光が背の高い木々に遮られた薄暗い森の中。

その密集した木の中に揺れ動くものが一つ。その根元に()()はいた。

およそ体長3m程の巨大な体躯をもち、猪の姿をしたソレは木の幹に齧り付き、樹体を抉っていた。

間違いない、あれが今回倒すべき"魔獣"だ。

現在、私とアンリは木の陰で息を潜め、あの猪の後方から様子を伺っている。

「おっきい......」

小さく抑えた声でアンリがそう呟く。カンさんが「デカいの」と言っていただけあって中々のサイズだ。強大な魔獣との戦闘を好むシーチおじさんやロセおじさんが興奮気味だったことも頷ける。

メキッ...メキッ......ミシィィィィ

魔獣が樹木を貪る音のみが響いていた森の中に、一際大きい音がこだまし、喰われていた樹体が大きく傾きだした。

ズドォォォン

樹高10mは超えていると思われる巨大な木は、抉りきられたことで根元の支えを失い、森を揺らすほどの轟音を立てて崩れ落ちた。よく見れば奥の方にはまばらに大木が倒れており、ヤツが進んできたと思われる方向を示している。

「アンリ、隠れて......!」

「うん......!」

私たちは木の陰から覗かせていた頭を同時に引っ込め、完全に猪の死角となるように身を隠す。

ズシン、ズシン、ズシン......

その巨体で大地を揺らす足音は、こちらに近づいている気配はなく、反対の方向...、おそらく倒れた木に沿って歩いている様だった。

しばらくすると足音が止まり、またも樹体を貪る音が響き出した。先ほどと違うのは響く音の中に微かに別の音......、小動物の――呻き声が混ざっていた。あの樹体の中にはリスか何かの巣があったのだろう、呻き声が聞こえなくなると同時に、肉が弾け、液体が飛び散る音が混ざりだす。

この状況、隙と考えてもいい......?

今の私たちの目的は、依然あのデカブツの打倒だ。隙を見せているというのならば、そこを狙わない手はない。だが冷静に考えろ、状況を焦り判断を誤れば危険に陥るのは私だけではない......――アンリもだ。そんなことはあってはならない。

「スズネちゃん、今って......」

木の陰で肩を寄せ合っているアンリが隣から小声で話しかけてきた。アンリもこの状況を隙と捉え、行動を起こすべきだと思い至ったのだろう。

「いや、待って。もう少し様子を見よう...。」

「うん、わかった...。」

私の言葉に対し、アンリは素直に頷く。アンリは私の判断を信じてくれているのだろう。信頼に応えるためにも判断を誤らないようにしなくては。

しばらくの後、響き続けていた命を貪り喰らう音が止み、ズシン、ズシン...とまたも足音が聞こえてくる。

ズゥゥゥン

足音にしては少し大きい音が響くと、そこからは大きい音が発せられることが無くなり、ごぉ...ごぉ...という猪の呼吸の音が僅かに耳に届くのみだった。ゆっくりと木の陰から顔を覗かせ、様子を伺う。

あれは......、寝ている?

そういえば、さっき小屋にやってきたロセおじさんは、「目を覚ました」と言っていた。

まさか、また寝た...?そんな、トトさんじゃあるまいし......。

だが、実際のところヤツが動く気配はなく、呼吸の音以外は完全に沈黙を保っていた。

お父さんに教わった魔獣の特徴について思い出す。魔獣の見た目はサイズ感に違いこそあれど、あらゆる生物のいずれかと同等の特徴を持っている。今回であればそれは猪であったが、その行動パターンはその見た目と同等であるとは限らない。魔獣には、肉食獣の見た目を持ちながら草ばかりを捕食するものや温厚であまり動かない動物の見た目で機敏に激しく動き人を襲うものなどがいるらしい。そのため、今目の前にいる猪は、その見た目を持ちながら行動のたびに休息をとり、鈍い動きをする、そんな特徴を持っていてもおかしくはない。もちろん、現状の情報のみでそう決定づけるのは危険だが、事実として睡眠を取り始めた今は確実に隙と捉えていいだろう。

「よし......!」

行動を起こす覚悟は決まった。

「アンリ、あの猪は眠りに入った。動くなら今だと思う。作戦を伝えるからよく聞いて。」

「うん...!」

アンリが真剣な表情で頷くのを確認し、作戦を伝える。作戦と言っても今できることは単純なことだ、眠っている今のうちに私から攻撃を仕掛け、ヤツの体を"減衰"させる。先に"減衰"の力を流し込んでおけば、もしすぐに目を覚ましてもその直後の動きは鈍るはずだ。その間、アンリは間合いを維持した状態で待機してもらい、必要に応じて筋力の"増強"による打撃であの巨体をひっくり返す。そうやってあの体を確認し、弱点となる()の位置に当たりをつける。核の場所さえ特定できれば、あとは私が陽動をしつつ奴の動きを鈍らせ続け、アンリに核を攻撃するチャンスを作り、アンリの爆発力のある一撃でそこを穿てばヤツは機能を停止するだろう。

ここまでの作戦を伝え終わり、アンリと目を見合わせ頷きあう。

「よし、――行こう!」

「りょーかいっ!」

勢いよく木の陰から飛び出し、真っ直ぐと猪に向かい走る。

――行動開始だ。

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