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空架ケル虹の彼方 -Unlimited Longing-  作者: 山並萌緩
イェソド大陸-研究都市ノーティア

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68/85

#68「バスに乗って」

「うわぁぁ.........!」

アンリが窓の外を眺めて目を輝かせる。


今私たちは、シオンに連れられてバスというものに乗っている。

シオン曰く、線路のないこの乗り物も、決まった時間に決まった道を通るものらしく、これに乗って目的地に行くのだそう。


そして、このバスを含め、単体で自由に移動することが出来る乗り物を自動車と言うんだそうだが、先ほどから同じ道路に時折現れるその自動車にアンリの目は釘付けだ。


「...楽しんでいるところ悪いが、これから向かうところについて少し説明しても構わないかい。」

アンリとは反対側の私の隣に座っているシオンが言う。

「あ、うん!いいよ!お願いします!」

窓から視線を外したアンリが振り向いて答える。

「私も大丈夫。お願いします。」

...昨日からそうだが、シオンの大人びた口調でものを教わる感覚は、村の道場で武術を教えてもらった時や、お父さんに勉強を教えてもらった時を思い出して少し口調が固くなってしまう。アンリもたぶんそうなのだろう。


「ああ。」

私たちの答えを受けてシオンが話し始める。


「今から向かう場所は、『虹耀騎士団(こうようきしだん)』という集団の訓練施設だ。」

「こーよー...?」

「騎士団...。」

「そう。彼らは、ここより北...私の故郷でもあるマルクト大陸の中心に位置する『セプタルクム王国』に仕える騎士たちでね。オーラの扱いを学ぶために、このノーティアに来ている。」

北にある王国...。たしか、すごく歴史の古い国だったけ...。


「...そんな人たちのところに私たちが行って大丈夫なの...?」

言葉のイメージから、なんだか尊大そうというか...。そういったところへは、簡単に入れてもらえないものな気がする。


「あぁ、心配せずとも問題ないよ。...ふふふ、なにせ私は訓練所へ出入りする権利を持っているからね...!」

...どこか自慢げだ...。


「シオンちゃん、すごーい!」

「ふ、そうだろう...!」


アンリが褒めたことによりシオンがさらに自慢げに胸を張る。

......アンリはたぶん何がすごいかはよく分かっていないと思うけど。


「えっと、シオンはなんでその、騎士団?に出入りできるの?」

とりあえず疑問をぶつけてみた。


「ああ、そうだね。まずはそこを説明しなければ。」

シオンが少し嬉しそうに話し始める。

「さっきも話した通り、訓練所にいる騎士団の者たちはオーラの習得を目的としている。そこには、オーラの研究者たちが集まる学院も関わっていてね。最初は、そこの元教授である先生の伝手で関わることが出来たんだ。」


「おじいちゃんの......。」

そういえばお父さんが、おじいちゃんは偉い人だったと言っていたっけ...。


「ふふふ、だが自由に出入り出来る権利を得たのは私の力でね...。」

また、自慢げに。

...大人びた子だと思っていたけど、案外子供っぽいところもあるのかも。


「私が最も得意とするのは<叡智>のオーラなんだが、私の"知覚"は()()()()()()()すら繊細に感じ取れる。...これは筋肉の動きや血の流れから、オーラを扱う上での体の動きやクセを見抜くことが出来るんだ。」

......そんなに細かく"知覚"が...。


「それでオーラの習得に難航していた騎士たちに助言をしたことがあったんだが、その騎士たちのオーラの習得が早くなったそうでね。それ以降、私は彼らに訓練所への出入りを許されたという訳だ。」

「へぇー...!」

「なるほど...。」


要はシオンの能力が有益だと認められたということなんだろうけど、シオンがそこまでの"知覚"を出来ることにも驚いた...。

...私もそうだが、お母さんでもそこまで細かに感じ取ることは出来ないはずだ。


「もちろん、この力は君たちの訓練のためにも役に立ってくれるだろう。だから、存分に頼ってくれ。」

「うん!」

「...うん、ありがと。」


......今の話、もしかしたら私が上手く扱えない"造形"やアンリが苦手な"圧縮"...それから、<壮烈>のオーラについてすらも、シオンに見てもらえれば上手く扱える方法が分かるかもしれない...。

いずれは相談しようと思っていたことだし、どこかでタイミングがあればお願いしてみよう。


―――。

「海ーーー!!!!」

アンリがバスを降りて走り出す。

「あ、ちょっとアンリ...!」

私もその後を追いかけ始めた。


バスが停まったここは海を一望できる高台らしく、降りて少ししたところに柵があり、アンリはそこ目掛けて走っている。

...ここ到着する前に窓から海が見えた時点で、アンリはだいぶ興奮気味だったから急に走り出すのもしょうがないだろう。


「うぉーー!!おっきーー!!」

追いつくとアンリは柵に掴まり、身を乗り出すようにして海を眺めていた。

「もう......。アンリ、落ちないようにね?」

「はーい!」

アンリに注意をしつつも、私も視線を柵の奥へと向ける。


この高台の下にはまだ街が広がっているようで、多くの建物が建ち並んでいた。

――そしてその奥にあるのが海...。


なんて広さなんだろう......。

ずっと奥まで終わりが見えず、海の水が地平線を描いている。

視界の端から端まで、海はずっと続いているようだ。...()()()()()()


「おい、君たち...。気持ちが早っていたんだろうが、置いていくのはあんまりじゃないかい?」

後ろからシオンの声がかかる。

「あ...ごめん。」

...シオンはおじいちゃんから預かったというお金で、私たちの分も運賃を払ってくれていたのだが、走り出したアンリに意識がいって置いて行ってしまっていた。

「うわぁー!?ごめんね!シオンちゃん!...わたし早く海が見たくて......。」


「ふふふ、冗談だよ。それよりアンリ、海を見れて満足は出来たかい?」

「うんっ!海すっごいね!...あ、あとアレって...」

そう言いながらアンリが指を指す先には、海が描く地平線に一本通る人工物――巨大な橋があった。


「ああ、あれも君たちが乗ってきたものと同じく、鉄道が走るための橋だね。......私がマルクトからやってきたのも、あそこを通る鉄道によってだ。」

「やっぱり...!すっごく大きいね...!」


アンリの言う通り本当にすごく大きい......。

あの橋を支える支柱は、海から伸びているというのにもかかわらず、見える部分の高さは私たちが乗ってきた高架鉄道の高さと同等の様に見える。

あれが北の大陸まで伸びているというのだから、そのスケールには圧倒されてしまう。


「さて、名残惜しいかもしれないが、満足してもらえたのなら出発しようか。」

再び海の方を見つめてしまっていた私たちを、シオンの声が現実へ引き戻す。


「...うん、騎士団のところに行くんだよね?」

「あ、そうだった!」

ここへ来たのはあくまで寄り道。本来の目的地に近いからと寄ってもらっただけだ。


「ああ、そうだ。......では、早速一駅戻るとしようか。」


......あ、通り過ぎてたんだ。

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