#67「ノーティアの朝」
また、知らない天井。
.........。
――そうだ!!
ガバッ
勢いよく体を起こす。
「スズネちゃん!スズネちゃん起きてー!」
「.........んんっ...?.........ぁ♡.........おはよぉ♡アンリぃ♡」
「おはよー!」
少し寝ぼけた様子のスズネちゃん。
「スズネちゃん!今日から訓練だよ!昨日、シオンちゃんが言ってたやつ!」
「.........んー......?............あ、そっか.........」
スズネちゃんが窓の方へ視線を向けた。
「うん!...わたしたち、今――ノーティアにいるんだもん!」
―――。
「おぉ、二人ともおはよう。早起きじゃのぉ〜。」
「おはよー!」
「おはよう、おじいちゃん。」
2階の書斎に降りてくると、そこにはすでにおじいちゃんがいた。
「うむ!朝食を持ってきてあげるから座って待ってなさい。」
「はーい!」
「うん、ありがとう。」
この書斎はリビングとして使っているようで、昨日も夕食はここで食べることになった。
......昨日の夕食は美味しかったなぁ......。
ここしばらく焼き魚や干し肉が食事のほとんどだったこともあって、久しぶりに食べた出来立てのお肉料理はとっても美味しく感じた。
「ほれ、お待ちどうじゃ。」
...机に置かれた器に入っているのは......白い液体に浸った......パンクズ...?みたいな......。
「あの...これは......?」
「これは、シリアルといってな穀物を加工したもので、牛乳に浸して食べるんじゃ。」
「へぇー」
「シオンがこのシリアルを気に入っておっての、ワシたちの朝食は毎朝これなんじゃ。...ほれ、食べてみ?美味いぞぉ。」
「うん!」
「う、うん...。」
おじいちゃんに促され、スプーンを手に持ちシリアルを掬う。
「あむっ」
口に入れたシリアルは、牛乳の柔らかな甘みと共に舌に触れ、ザラザラとした舌触りを感じさせた。思ったよりも硬いシリアルは、噛むとサクサクと音を立てて、香ばしい風味を口の中に広げていき......
「んん......!」
とっても美味しい...!
「ん、おいし...!」
「そうじゃろ、そうじゃろ。ワシもシオンに釣られて食べるようになったが、これが意外と美味くてのぉ。」
...ん?そういえば...
「おじいちゃん、シオンちゃんはまだ起きてないの?」
おじいちゃんが持ってきたシリアルは3人分......シオンちゃんの分がなかった。
「あぁ、あの子は朝が弱いからのぉ。いつも遅めに起きてくるんじゃが......まあそのうち来るじゃろ。」
「そーなんだ」
外はすでにしっかりと明るくなっているし、遅いくらいだと思っていたけどシオンちゃんはそうじゃないみたいだ。
コツ...コツ...コツ...
「お、噂をすればじゃな。」
部屋の外から足音が聞こえる。
...でも、この音......
「下から...?」
ガチャ
階段を登ってきた足音が止まり、部屋の扉が開き、
「......やぁ...揃っているね......おはよぅ.........ふわぁ〜.........」
シオンちゃんが現れた。
......とっても眠そう。
「やっぱり今日は早かったのぉ。」
「......あぁ......ようやく二人が来たからな......」
「全く、楽しみがある時だけちゃんと起きおって。今、シリアルを持ってきてやろう。」
「...ん......たのむ...」
そう答えてソファーに座るシオンちゃん。
「おはよー!シオンちゃん!」
「おはよう。」
「.........あぁ...おはよう......」
「ねぇ、いま下から来なかった?」
シオンちゃんの部屋は、わたしたちが使わせてもらっている部屋の隣......つまり3階にある。
にも関わらず、2階にあるこの書斎に、寝起きのシオンちゃんが下から来たのはなぜだろう...?
「...ん......。......あぁ...昨日話した実験......いつも寝起きに、やっていてね......。」
「え」
実験というと、昨日の屋上からの飛び降りのことだろう......。
下から来たことへの疑問は解けたが、それは......
「それ、危なくない...?」
スズネちゃんが問う。
シオンちゃんのオーラは、屋上から飛び降りた衝撃に耐えられるもののようだけど、寝起きのような力が入らない時にはオーラの力が安定しないこともある...。その状態で行うのはとても危険なことだろう......。
「...うん......。...だからこそだ......。」
「え...?」
「...自分の状態に...関わらず......オーラを、扱えるように...体に、感覚を染み込ませる......必要が............ぐぅ......」
...あ、寝ちゃった。
「これ、せっかく起きたのに寝るんじゃないわい。」
シリアルを持ってきたおじいちゃんが、シオンちゃんを小突く。
「いた」
「ほれ、食べれば目も覚めるじゃろ。」
「...あぁ...朝はこれに限る...。」
シオンちゃんがシリアルを食べ始めた。
「......この子の実験が危ないのは、そうなんじゃがなぁ...」
再びソファーに座ったおじいちゃんが話し始める。
「言っても聞かんのじゃよ、一回やめろと注意したら遠出してまでやりおった挙句、ちょっとした騒ぎにまで発展させおって。」
「...ふふふ......、あれは本当に迷惑をかけた...。」
「笑い事じゃないわい。...だからせめて目の届く範囲でやれとは言ったんじゃが...最近はさっきの通り寝起きにやるようになってのぉ...。」
「衝撃に対して耐えられる成果は得た...そうなれば、次は使用感の安定だろう...。」
「この通り、反省する気配もなくなぁ。」
「おぉ......。」
シオンちゃんは、おじいちゃんに叱られても続けてるんだ...。
...わたしがお母さんに叱られたら............怖いから考えないでおこう。
「でも、何かあったら元も子もないんじゃ......」
シオンちゃんの行動力に少し感心してしまったが、スズネちゃんの言うとおりだ。
もしオーラを上手く使えなければ、きっと大怪我をしてしまう...。
「...その時は、私がそれまでだったというだけだ。」
「「............!」」
シオンちゃんの言葉に驚く。
......それほどの覚悟をもってやっているんだ...。
「はあ......この命知らずなところは、少し君らのお母さんに似とるかもなぁ...。」
「え...」
「お母さんに!?」
お母さんの名前が出て少し嬉しくなる。
「あぁ、君らのお母さんがまだこの街にいた頃......オーラの力を試すためと、小舟を使って一人で海に出て魔獣と戦ったりしておったからのぉ...。」
「あー......やりそう...。」
...うん、お母さんならやりそう。
......というか、いま......
「海って......」
「ん?...ああ、そうじゃな。この街の北は海に面しておるよ。」
「......!」
やっぱり...!
「フフフ、見に行きたいか?」
「うん!」
「そうかそうか!シオン、どうせ近くまで行くんじゃし、ついでに海が見えるとこまで行ってきたらどうじゃ。」
「ん、私は構わないよ。」
「ホント!?」
「ああ、もちろんだ。朝食を食べ終えたら早速向かうとしよう。」
「やったー!」
訓練も楽しみだったけど、もう一つ楽しみが増えちゃった...!!




