#66「夜に想う」
「ふぅ」
スズネたちを迎え入れたパーティーを称した夕食を終え、私は部屋に戻ってきた。
「...少し食べすぎたか。」
随分な量を作ってしまったからな。
...とはいえ、アンリの食べっぷりが凄まじく、料理が残るということはなかったが。
「..................。」
隣の部屋から、僅かに声が漏れ聞こえてくる。
話の内容までは聞き取れないが、楽しそうな声色であることは分かった。...本当に仲がいいのだな。
...............。
...私は二人に受け入れてもらうことが出来るだろうか...。
先生から彼女たちの話を聞いた時、運命すら感じたものだ。
私とそう歳の変わらない少女が、たった二人で世界を見るために旅立とうとしていると......。
それは、衝動のままに故郷を飛び出た昔の私が成しえなかった夢だ。......彼女たちは、私と同じ夢を持っている。
だからこそ、私は彼女たちの訓練の手助けを買って出た。
......いや、先生にその役を譲ってもらった、というほうが正しいかもしれない。
まあ、むしろ私の方が適任だろうと先生には言われたが。
元より、私はオーラを視る力を評され、騎士団の出入りを許されている身。その力を持つ私の助けは、きっと彼女たちの役に立つことだろう。
そう考えれば、どちらにせよ私が彼女たちの訓練に関わることになっていたのは間違いはないのだが、私が求めているのはその先だ。
彼女たちは、この街、ノーティアで力をつけた後、いずれここを離れるだろう。
......私の望みは、その際に同行させてもらうこと......つまり、私も旅に出るということだ。
少しずつではあるが、騎士団に顔を出した際や、この家での筋トレなど肉体面も鍛えてはいるし、なによりも、私の弾む惑星...あれがある以上、外の世界へ行ってもある程度の危険には対応出来るだろう。
...元々あれは、いつか旅に出ることを考えた時に私一人では無理だと結論付けて、仲間を見つけることを前提に開発した技だ。
正に、今の状況がいつか来ることを期待してのものだったからな......思ってたよりもだいぶその時はすぐに来たが、このチャンスを逃す手は無い。
......とはいえこれは、あくまで私個人の願望...。
二人に拒否をされてしまえばそれまでなんだがな。
まあいずれにせよ、私は先生に世話になっている身であり、その先生の孫である二人に手を貸すことは願望抜きでもやり遂げるべきことだろう。
うん、そう考えれば私がやることは初めからシンプルだ。...今の段階で何かを悩む必要はない。
そこまで思考を終えたところで、いつもの日課を行うためベランダへ向かう。
「..................。」
今日も空には雲一つなく快晴だ。
暗い夜空に輝くのは、虹と月...それから星。
私は昔からあれを見るのが好きだ。
あの輝きは、その煌めきへの感動だけではなく、私に世界の広がりを感じさせてくれる。
星というものは、あれ一つ一つが実体を持った物体であり......私たちが生きるこの世界と同等なものだという...。
私は、こんなにも広大な世界で、狭い世界だけしか知らずに生きていくのはごめんだ。
世界のあらゆる景色をこの目で見て、大地をこの足で踏み締め......いつかは、あの星にだって辿り着いてみたいと思っている。
だから、あの二人と関わることはそのための第一歩だ。
もちろん、結果として私が彼女たちに同行出来ない可能性があるのは承知の上だが、それでも前に進める可能性が与えられたことには違いない。
「..................。」
ベランダに置いてある望遠鏡を覗き込む。
...毎日見ているものだし、何かが大きく変わっている訳でもない。
それでも、このレンズ越しの景色は...いつだって私の心に新鮮な躍動を与える。
――それに、
「............今日の星は――一段と輝いているな。」




