#60「シオン・ノクステラ」
オーラの継続展開、問題なし。
着地時の衝撃吸収、問題なし。
身体へのダメージ、問題なし。
...突発的なアクシデントにも、影響はされず。
よし、今日の実験も問題なく無事に――
...ああ、いや、無事ではないのだった。
球体状に展開したオーラを解除し、地面に――
「うっ」
――尻もちをついた。
...やはり、解除後の着地が難点だな。...カッコがつかない。
「大丈夫ー!?」
大きな声が聞こえてきた方へ目をやれば、二人の少女が駆けてくる。
片方は、赤みの強い茶髪に真紅の瞳をした少女。
もう片方は、艶やかな黒髪に群青の瞳をした、茶髪の少女より少し背の高い少女。
ふむ、私にぶつかってきたのは茶髪の少女の方だろうか?
先程の落下の最中、あの真紅の瞳と目が合ったはずだ。
「ねえ...!怪我とかない...!?」
近くまで駆け寄ってきた二人が、心配そうに私を見おろしている。
「...ああ、問題ないよ。」
そう言いながら立ち上がった。
立ち上がってなお、私を見下ろす二人を見上げながら続ける。
「...すまない。どうやら、心配をかけてしまったみたいだね。だが、どうか安心して欲しい。私は決して身投げをしていたというわけではないのでね。」
「...?よく分かんないけど、大丈夫そうなら良かった!」
私の実験......。あれは、傍から見れば殆ど身投げのようなものだ、心配されるというのも仕方ない。...まあ、茶髪の少女はそこまで深くは考えていなかったようだが。
...そして、私の行動に驚いたということはこの辺りの人間ではないということになる...。それに、少女が二人......もしや――
「――失礼だが、君たちの名前を聞いてもいいかい?」
「え?」
「え...?」
茶髪の少女はポカンと、黒髪の少女は少し怪訝な表情で首を傾げる。
...直前まで身投げに見える奇行をしていた相手に突然名前を聞かれているのだから当然の反応か。
「うん、質問を変えよう。...君たちはこの家の家主、ノレフ・ルクシアに用があってやって来たのかな?」
私が飛び降りたこの家、ここで彼女たちと出会ったことも私の推測を裏付ける要因の一つになっている。
「え、なんで知ってるの!?」
「あ、アンリ...。......えっと、...あなたは......?」
茶髪の少女はともかく、黒髪の少女には少し警戒されてしまっているな。
そもそも、名乗ってもいなかったか。
「すまない、自己紹介をしよう。...私は、シオン・ノクステラ。――この家の...うん、居候と言ったところかな。」
「いそーろー?」
「ああ、そうだ。...それとこれも伝えておこうか、――ようこそ私たちの家へ、スズネ、アンリ、君たち歓迎するよ。」
突然名前を呼ばれたからか二人は驚いた様子だが、私はただこう思う――
フッ、決まった......。
――と。
―――。
「本がいっぱい......。」
二人をこのルクシア邸へ招き入れ、中を案内する。
「ここは先生が教授だった時に使っていた資料が全て保管されているからね、小さな図書館のようになっているんだ。」
「へぇー...!」
「あの、先生って...?」
「ああ、すまない。先生と言うのは君たちの祖父のことだ。元教授だということもあって、私も含めてここらでは先生と呼ばれていてね。...さあ、上がってくれ。」
本棚が立ち並ぶ広い一階を通り抜け、奥の階段へと二人を促す。
コンコン
「先生、お待ちかねの客だぞ。」
二階に上がり、廊下の真ん中にある大きな扉――先生の書斎の前へとやって来た。
「...客?......!シオン、早く入れてあげてくれ!」
「ああ。」
中でドタドタと聞こえる。...全く元気なことだ。
ガチャリ
扉を開けると――
「待っとったよぉー!キミらが、スズネとアンリじゃなぁ!!」
「わっ!?」
「えっ!?」
すぐ目の前に先生がいた。
「はぁ......。」
本当に元気だな......。




