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#6「迫る試練」

小屋を背にしたわたしたちは、先ほどよりはだいぶペースを抑えたスピードで再び走り出す。後方からは、「がんばれよー!」「グッドラーック!」といった、ロセおじさんとシーチおじさんの声が聞こえた。

「がんばるよー!」

後ろを振り向き、スズネちゃんと共に手を振る。

「ふふっ、それじゃ、そろそろ今からの動きを確認するわね。」

わたしたちのやり取りに少しの笑みを溢し、振り返らないままお母さんが話し始める。

「まず、今から向かう先にいる魔獣は二人だけで倒してもらいます。」

「え!?......いいの?」

唐突に発せられた言葉に当然の疑問をぶつける。魔獣狩りへの同行というのは初めてのことではないが、村では基本、修練中の子供たちだけで村の外に出るのは禁止されており、しかも森まで来て魔獣狩りを行うなんてもってのほかだ。

「ええ、今回は二人だけでやってもらうわ。もちろん、私も近くで見張っているけど、本当に危ないと判断するまでは手は出しません。」

「おー...!」

お母さんの返答は予想外のもので、その言葉に期待と緊張を感じ胸が高鳴る。

「ただし、決して無理はしないで。私の助けがあるかに関わらず自己判断で危ないと感じたら、私に助けを求めるか、全力で逃げること。二人とも、いい?」

「うん、わかった!」

「うん。」

お母さんの言葉を2人同時に了承する。

「ああ、そうだ。アンリ、もし逃げる時、村へはどっちに行けばいいかわかるかしら?」

「はい!今は森にいてお昼より前だから赤が右になるように虹に沿って行きます!」

「正解!よく出来ました!」

空に架かる虹は、太陽と一緒に動くものらしく、あれを見ると時間や方角が分かるとお父さんに教わった。わたしはあまり難しいことは理解できなかったが、そんなわたしにお母さんは簡単に理解出来る村のある方向の確認方法を教えてくれた。

「それと、今日はいつもはダメな<壮烈>のオーラも使っていいわ。」

「え!?」

今日は本当に予想外のことばかり起きている。

わたしが()()()()とする、赤色の<壮烈>のオーラは、"破壊"の能力を持ち、圧倒的な攻撃力を持つが、わたしは上手く使いこなせていないらしく、使うと体がほとんど動かなくなったり、気絶してしまったりする。数年前、初めて魔獣狩りへ同行した時も、この力を使ったことがあり、魔獣を倒すことには成功したらしいが、わたしは気づいた時には家のベッドにいた。それ以来、わたしはこの<壮烈>のオーラをお母さんの許可無しに使うことを禁止されている。

お母さんとの訓練のおかげで、今では僅かな力まで抑えて扱えるようになった。しかし、それくらいの力でも体がしばらく硬直することが多く、実戦で扱うことは難しいだろう。

「もちろん、必ず使えとは言わないし、使うとしても適切なタイミングを見極める必要があるわ。でも、自分の中にある選択肢は全て考えるようにしなさい。魔獣とのやりとりは命のやりとりなの。自分が生き残る為には余計なことを考えちゃダメ。」

「......うん。」

お母さんの真剣な口調に思わず息を呑む。いつもは守ってもらう立場なのであまり実感はないが、魔獣狩りというのは危険なものなのだ。わたしたちの村では、お母さんの存在や、トトちゃんの<命脈>のオーラもあり、死傷者を出したところは見たことがないが、他の村では時折、魔獣との戦闘による死者が出ると聞いたことがある。力を振るい、戦いを行うというのは、わたしにとっては胸が躍る行為だが、この事実を忘れずに気を引き締めろとお母さんは言っているのだろう。

「それに、もし全力で使って動けなくなっても、あなたの頼もしいパートナーは絶対あなたを守ってくれるわ。ね、スズネ♪」

先ほどまでの口調からいつもの調子に戻ったお母さんは、スズネちゃんに方に少し視線を送った。

「うん、アンリのことは絶対私が守るよ。」

スズネちゃんの力強い言葉に安心を覚え、胸が温かくなる。

「スズネちゃんがいれば安心だね!...でもわたしも頑張るから!」

「うん...!」

スズネちゃんと視線を合わせ、微笑み合う。

「ふふっ、その意気よ。.........っと、そろそろ止まって!」

お母さんの静止に2人そろって足を止める。

「ここから、およそ50m前方、そこに魔獣はいるわ。」

おそらく、黄色の<叡智>のオーラの"知覚"の能力によって、魔獣の存在を確認したお母さんがそう告げる。

「今からは、二人で行動しなさい。私はこの辺り木の上で常にあなたちの行動を確認してるから。......さっきも言ったけど、危険だと判断したら絶対無理をせず、助けを呼ぶか、全力で逃げるか、よ。わかった?」

「「うん......!」」

わたしたちの返事に微笑みを見せたお母さんは、すぐさま高く跳躍し、近くの木の上から森の奥の方へと消えていってしまった。

「......よし。それじゃあ、私たちも行こうか、アンリ。」

「うん!」

スズネちゃんの言葉に返事を返し、前方にいるという魔獣に向かいゆっくりと森の中を進み始めた。

今から、わたしとスズネちゃんの魔獣狩りが始まる――。

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