#55「目を開けると」
パチリ
目を開けるとスズネちゃん。
いつも寝起きに見るその顔は、普段よりだいぶ近くて、わたしの目に瞳が大きく映る。
でも、その瞳は大きく開かれ動かない。
...?
よく分からないけど、とりあえず。
「おはよースズネちゃん」
朝の挨拶を口にした。
「...ぇ......ぁ、おはよ...」
固まっていたスズネちゃんが動きだし――
ブワッ
――涙が......――
ガンッ
「――ッ!!」
ドシン
「ぐぇっ...!」
勢いよくわたしの上から飛び退いたスズネちゃんは、天井に頭をぶつけてわたしの上にのしかかってきた。
「す、スズネちゃん大丈夫...!?」
ぶつけた頭と......一瞬見えた涙...。どちらも心配で声をかける。
「......ぅん...。ゴメン......ゴメンね......。」
わたしの頭のすぐ右側に、頭を埋めているスズネちゃんが謝った。声は少し涙で濡れている...。
「大丈夫。わたしは大丈夫だよ......」
右手で頭を撫でながら、優しく伝えた。
「ううん...そうじゃないの......。でも、良かった......。」
...?スズネちゃんの「ゴメンね」は、のしかかってきたことにじゃないのかな?...それに、良かったって......。
この状況に既視感を感じる。
あれは確か――
「!」
そうだ...!わたしは、また気を失って――
ズキンッ
「うっ!」
気を失う直前の光景を思い出し、頭に刺激が走った...。
「――アンリっ!?」
わたしの声に反応したのか、勢いよく体を起こしたスズネちゃんがわたしの顔を見る。
「どうしたの!?大丈夫!?」
心配そうに見つめてくる瞳は、やっぱり涙で濡れている。
「...大丈夫、ちょっと頭痛がしただけだから...。」
「...え、頭痛って......」
「それより、...また、心配させちゃったよね......。ごめんね、スズネちゃん...。」
スズネちゃんの溢れそうになっている涙を指で拭いながら謝る。
「......!......これは...そうだけど、そうでもないと...いうか......えっと...ゴメンね......。」
そう言うスズネちゃんは涙を拭いながら、わたしから離れてベッドを降りていく。
......?
スズネちゃんの言葉もそうだけど......より分からないのは、この場所...。
ベッド...だと思う、この場所から降りたスズネちゃんが立ち上がると頭が天井より上にいってしまう。
...というかこの天井、途中で途切れてるしすごく低い。そもそも天井じゃないのかも。
それに先ほどからずっとガタンゴトンという音と共に揺れを感じる...。
ここは...?
「ねぇ、スズネちゃん。ここどこ...?」
スズネちゃんに尋ねる。
「...あ、そうだよね......。...うん、見てもらった方がいいかも。」
そう言うと再びベッドに来てくれるスズネちゃん。
「アンリ、体起こせる?」
「...うん、大丈夫だよ。」
さっき頭痛がしたこと以外は、体に痛みや違和感は無い。
...それでも、スズネちゃんはやっぱりわたしを心配してくれてるみたいで、頭を支えながら体を起こすのを手伝ってくれる。
「......っ!」
体を起こしスズネちゃんと顔が近づくと...目を逸らされてしまった...?
少し、動揺する...。
「スズネ、ちゃん.........?」
スズネちゃんと顔を合わせている時に視線が合わないなんて初めての経験だ...。それに、スズネちゃん...顔が赤く......?
「...あ、...いや、ごめん...アンリ...。ゴメン......。」
「え...」
スズネちゃんがまた謝ってしまう。...いったい、どうしたのだろう......。
「......あ...えっと...なんでもないから。...こっち、来てみて?」
「う、うん。」
わたしの体を支えるようにしながら、そう言うスズネちゃんに促され、ベッドを降りる。
ベッドを降り立ちがると、すぐ隣には窓が――
「......!」
窓から見える景色は広大だった。
視界の真ん中で分けられた青と緑。
広い空と...下に広がっているのは、森......?
一つ一つが小さく見えるが、あれは木だと思う。
...小さい、というより遠い...?いや、この場所がすごく高い...!
...しかも、この景色動いてる...?
――さっきからずっとしている音と揺れ...!
「スズネちゃん...!ここってもしかして...!」
「――うん。ここは、高架鉄道。...今私たちはノーティアに向かってるんだよ。」
やっぱり...!
わたしが気を失っている間に、目的地に辿り着いてたんだ!――あれ、でも...
嬉しい気持ちも束の間、一つの事実に思い至る。
「フォルロさんは......?」
「...うん。ケントルアでお別れしたよ......。」
「あ......。」
やっぱりそうだ...。
ここが高架鉄道なら、ケントルアからはもう出ていることになるし、...当然、フォルロさんとはそこで別れることになるはずだ......。
「......お別れ、言いたかったな......。」
会えなくなるのは寂しいけど、せめて別れの言葉くらいは交わしたかった...。
「アンリ。」
少し俯いてしまったわたしの視線が、スズネちゃんの声の方へ引っ張られる。
「フォルロさんね、いつでも戻って来いって、その時は面倒見てくれるって言ってたの。――だから、いつかまた行こう?」
......あ、そっか。――また、会いに行けばいいんだ...!
「――うんっ!!」
強く頷き、いつか来る再開を楽しみにすることにした...!




