#53「1日の終わり」
「ふぅ――」
アンリをベッドに横たえて、一息つく。
フォルロさんと別れて鉄道に乗り込むと、中にいた乗組員の人がこの部屋に案内してくれた。
部屋自体は狭い空間ではあるが、その中には2段ベッドと座席が用意されており、ノーティアに着くまではゆっくりと休めるだろう。
「...すぅ......すぅ......」
横たえたアンリはずっと眠り続けているが、寝息はとても穏やかで、少し安心する。
私も少し休もう......。
荷物を座席に降ろし、隣の座席へ座って窓の外を眺める。
とはいえ、まだ鉄道は発車していないので窓から見える景色は未だ駅の中だけだが。
先ほどこの部屋に案内してくれた乗組員によれば、あと30分くらいで出発するはず。そして、そこからは2日かけてノーティアに向かう予定だそうだ。
......今日は本当に色んなことがあった。
フォルロさんとの出会い、ケントルアへの到着に初めて乗った鉄道......そして、地下でのあの戦い...。
......結局、あの少年は何者だったのだろうか...?
そして――
視線をアンリに移す。
――アンリが見せたあの力はいったい...。
オーラを吸収する力...それだけでも驚きのものであったが、......その力は、あの少年も使っていた......。
あれは、アンリとあの少年には同じ力があったということ...?
そうなると一つの不安が湧いてくる。
少年が見せた異様な姿......首から骨の突き出た――まるで魔獣のようなあの姿に、アンリもなってしまうんじゃないかという不安だ...。
あの姿が何なのかは分からないが......すごく嫌な感じがして、危ないものであるという予感がある...。
アンリは、暴走している間明らかに正気を失っていたし、......<壮烈>のオーラを使ったのにも関わらず、暴走とはいえ動けていた...。
これまでと違う事ばかりが起きたことを考えても、あの力は普通じゃないと思う......。
具体的にならない不安が頭の中に募っていく。
何故、アンリにはあんな力が......。
......思えば、私が知っているのは、出会ってからのアンリだけで、それ以前のことは何も知らない......。
アンリは出会った時には記憶を失っており、自分の名前以外は分かっていなかった...。...だから、アンリがいつ、どこで、どうやって生まれてきたのかを知らない...。
...私は、アンリが何者であるか分からないんだ......。
――いや、だけど。
席を立ち、アンリが寝ているベッドに座る。
...カワイイ寝顔だ......。見ているだけで心が温かくなる。
......やっぱり、アンリが何者かであるかなんて関係無い。私は初めてアンリを見たあの日から、――ずっとこの子が大好きだ......。
その事実だけは間違いがない。これまでも、この先も、アンリが何者であったとしても、...ずっと。
...だから大丈夫だ...この不安は、今は心の奥にしまっておこう。いつかきっと、アンリのことについて知れる日が来ると信じて......。
コンコン
アンリへ想いを馳せていたところで、不意に扉を叩く音が響く。
「は、はい...!」
少し慌てて扉を開ける。
「そろそろ出発の時間となりますので、乗車の確認に参りました。」
乗組員の人だ。
「こちらのお部屋には、お二人のご乗車ということで間違いないでしょうか?」
「あ...はい。ちゃんと乗ってます。私と、もう1人も。」
「ありがとうございます。それでは、まもなく発車致しますので、今しばらくお待ちください。」
そう言って乗組員は去っていった。
「ふぅ...」
急だったので少し驚いたが、もう発車の時間が近づいてきているようだ。
改めてアンリの隣に座る。
なんだか少し気が抜けてしまった。...いっそこのまま私も寝てしまおうか...。
そう思うと、今日の疲れが一気に襲ってくる。
...うぅん、やっぱり寝てしまおう......。
鉄道が発車するくらいまでは起きていようとも思うが、眠気には抗えない...。
アンリの隣で横になり、目を瞑る...。
「おやすみ...アンリ......。」
――私たちのケントルアでの長い1日は、こうして幕を閉じた。




