#51「乗車券」
「ようこそ!メルカートシヨステ区支部へ!」
メルカートに入り、受付の女性がいつもの挨拶をする。
短いものとはいえ、今まで聞いた3回とも同じ内容だったので、おそらくメルカートのマニュアル通りの挨拶なのだろう。
「こんばんは、本日はどのようなご用件ですか?」
「高架鉄道の乗車券を売ってくれ。ノーティア行きだ。」
イチリ区の時もそうだったが、ここでもフォルロさんが受付の人との対応をしてくれている。
「はい、ノーティア行きですね。本日の夜の便は1時間後の出発となります。問題ありませんか?」
「ああ、問題ない。」
「かしこまりました。次に、車両の種類となりますが、一般車両であればお一人あたり1万2000アクティクタ、特別車両であれば現在空いている個室が5万、4万、3万アクティクタのグレードのものとなります。」
「一般車両で......あ、いやちょっと待ってくれ...その個室はベッドがついてるやつか?」
「はい。4万アクティクタのグレードからであれば、ベッド付きの個室をご用意させて頂いております。3万アクティクタのグレードでは座席のみとなっているのでご了承下さい。」
「そうか......。スズネ、どうする?4万アクティクタならお前ら2人でも足りるだろうが...」
手続きを進めていたフォルロさんが私に問いかけてきた。
4万アクティクタが2人分で、8万アクティクタ...。
最初に10万アクティクタ入っていた財布は、ここまでの移動で少し減ったもののまだ9万アクティクタ以上残っている。
...普段なら一般車両と言っていた一番安いもので構わないが、...未だ目を覚ます気配のないアンリをベッドで休ませることが出来るのなら、特別車両の方を選びたい。フォルロさんが問いかけてきた意図もアンリを気遣ってだろう。
――というか、鉄道にベッドなんてあるんだ...。
アンリを休ませたい思いから流してしまっていたが、遅れて少し驚いた。
「4万のベッド付きでお願いします。」
「......私から聞いといてアレだが...。財布の中身はギリギリになるはずだろ?...問題ないか?」
「はい。ノーティアには祖父がいるんです。向こうに着けさえすれば私たちは面倒を見てもらえる予定になってます。」
旅立つ前に言われたノーティアを目指す理由の一つとして、オーラの研究者をしているおじいちゃんの存在があった。
お父さんによれば私たちの面倒を見てくれるように手紙でお願いしてくれたらしい。だから、ノーティアに着くことが出来ればお金の問題は気にしなくてもいいはずだ。
「なるほどな...。よし分かった、じゃあ4万の個室の乗車券2人分頼む。」
私の答えに納得したフォルロさんは、受付の女性に再び向き直り、乗車券の注文をする。
「はい、かしこまり――......おふたりでよろしいですか...?」
「ん?...ああ、乗るのはコイツらだけだ。私は...付き添いってところか。」
こうやって驚かれることもメルカートに来るたびに起こっているが、やはり子供だけで街の外に出るというのは普通は無いのだろう。
「そうでしたか。...申し訳ありません、余計な質問をしてしまいました。」
「いや、構わねえよ。」
「...ありがとうございます。それでは、おふたり分の乗車券で8万アクティクタとなります。」
受付の女性は、申し訳なさそうな表情をしたものの、すぐに切り替えて業務的に料金の提示をしてきた。
「...と。...フォルロさん、これ、お願いします。」
アンリを背負っていて財布からお金を取り出せないので、片手で取り出した財布をフォルロさんに渡す。
「おう。......これで頼む。」
「はい。ちょうどですね。ありがとうございます。...ただいま、乗車券の発行をしてまいりますので少々お待ちください。」
そう言って女性は受付の奥へ入っていく。
「ほら。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
フォルロさんが財布を返してくれた。
その財布をポケットにしまっていると、女性がすぐに戻って来る。
「お待たせいたしました。こちら乗車券となります。ケントルア北駅にて係の者にお見せください。」
イニティアやイチリ区で許可証を発行してもらうのはしばらくかかったので、今回もしばらく待つことになると思ったがそんなことはなかった。
「ああ、ありがとう。」
そう言ってフォルロさんが乗車券を受け取る。
「...じゃあ、あとは駅に行くだけだな。行くぞ。」
「はい。」
こうして、私たちはメルカートを後にした。
――ケントルアともそろそろお別れだ。




