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#5「森へ」

「はっ、はっ、はっ......」

お母さんのスピードに置いていかれないように必死に走る。先ほど村の南の門を抜け、ここまで既に5kmは走っている。ここからおよそ10kmほど前方には大きな森が広がっていて、今私たちが向かっているのはその森の中、そこに現れたという魔獣の下だ。

「お、おかあさん、はやいぃ......!」

アンリが絞り出すように抗議の声を上げる。カワイイ。

「着いてこれないなら、アンリは魔獣狩りお休みね。」

「ううぅ、がんばるぅぅ...!」

アンリの抗議は受け入れられず、弱々しい声だけが響くことになる。実際、私たちは先ほどまで全力の組み手を行い、そこからほぼ休みなしで全力疾走をしているので結構キツイ。走ることの得意なアンリですらこの有様となっている、私の方は声を出す余裕もなかった。しかし、お母さんのこのスピード、おそらく全力の半分も出ていないだろう。その上で今の私たちがギリギリ追いつけるスピードを維持している。組み手後に魔獣狩りに行くことは聞いていたが、まさかこんな試練まで待っているとは思っていなかった。

スパルタめ...。

とはいえ悪いことばかりではなかった。

「ううぅぅぅう......!」

先ほどから漏れ続けるアンリの声、普段滅多に聞くことのない弱々しい声を存分に堪能できる。これがあるだけで余裕のない状態でも元気が出てくる。

――しばらく走り、辺りに生えていた木がまばらから密になり始めたところで、簡易的な小屋が見えた。

あの小屋は森と村との中継地点の役割を持っており、中には大したものがないが、交代で見張りをしながら休憩場所として使われたりしている。

ちょうど、小屋の入り口には筋肉質な初老の男性が立っており、こちらに手を振っていた。

「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ......」

小屋に辿り着き、お母さんが止まったことでようやく休める。私もアンリも汗だくになりながら倒れ込みたい気持ちを抑え、なんとか息を整えることに努める。

「おいおい、スズネもアンリもすっかり疲労困憊じゃねえか。しかし、随分早かったなあ。」

初老の男性、シーチおじさんが私たちの疲労を気に留めつつ、予想外の到着の速さに驚きの声を上げた。

「アンタたちが興奮して手を出すかもってカンに言われたのよ。」

「はあ?あっはっはっはっ!確かに久々の大物にテンション上がっちまったが、俺たちがお前のお願いに逆らうわけないだろう!後が怖いからな!」

「ふふっ、わかってるようで何より。」

「ひー、おっかねえ!」

お母さんとシーチおじさんは軽快なやりとりを交わしていたが、そこに森の奥からもう1人、シーチおじさんと同年代の男性走ってくる。

「おい、シーチ!野郎、目ぇ覚しやがった!やっちまうか!?」

その男性、ロセおじさんは近づいてくるやいなや、やや興奮気味な様子でシーチおじさんにそう告げた。

「あ、おい!ロセ!」

「ん?...げっ!エリナ!?もう来たのか!?」

「ふふふ、そうだけどなにをやっちまうって?」

「いや、ちげーんだよ、冗談だって、冗談!」

「まあいいわ、まだ手は出してないんでしょ?」

「ああ!もちろんだ!」

「よろしい。」

シーチおじさんもロセおじさんも...というより村に住むみんなはお母さんに頭が上がらない。それというのも、デシデ村は周辺でも最も魔獣との遭遇が多く、村が街の兵士に頼らずに安心して暮らせるのはお母さんの存在が大きいからだ。それでいて誰とでも打ち解ける人柄で村のみんなに好かれている。もちろん、アンリも私も大好きだ。

ギィー

お母さんとおじさんのやりとりが落ち着くと、小屋の扉が開いた。

「ふわぁ〜。オッサンどもうっさいぞー。お、エリナさん、はよーっす。」

中から出てきたのは眠たげな女性、トトさんだ。

「あら、また寝てたの?大丈夫だとは思うけどほどほどにね?」

「ほーい。ま、でもオッサンたちが頑張りますし、私は守られるのがお仕事なんでー。」

「はあ、もうちょい危機感は持って欲しいもんだぜ、まったく...」

トトさんの言い草にシーチおじさんが呆れている。

「ところで、そこのスズネとアンリ、ヘトヘト感丸出しですけど一発キメます?」

「いや、必要ないわ、二人はこのまま連れて行くから。」

「ほー、そりゃお気の毒に。そいじゃ。」

自分の出番はないと悟ったのかトトさんは踵を返し、再び小屋へ戻ろうとする。

「いや、お前今起きてきたんじゃないのかよ?」

「いやいや、エリナさん来てるんよ?こりゃここら一体安全地帯、快適な惰眠貪りタイムでしょ。......ふわぁ〜ぁ。ねむ.........。じゃ、おやすみ。帰る時起こして〜。」

そう言い残して、本当に小屋に入ってしまった。

「もう、しょうがない子ね。」

「ははは、全くだが、あれでやる時はちゃんとやる。俺たちにゃ大事な生命線よ。」

お母さんとおじさん達は顔を見合わせ呆れたように笑っていた。

トトさんは、緑色の<命脈>のオーラを得意としており、その能力"再生"によって怪我の治癒や疲労の回復が可能だ。村では最も<命脈>のオーラを得意とする貴重な人材なので、戦闘に不向きながらも村から狩りに出る際には同行することが多い。この小屋も一番使うのはトトさんで、トトさんを森に連れて行く時はいつもこの小屋に常駐してもらうことで負傷や疲労すぐに癒してもらえる。先ほど疲れ果てた私たちをみて「一発キメる」と言っていたのも、疲労回復を提案してくれていたのだろう、言い方は怖いが。

「さ、アンリ、スズネ、そろそろ息は整ったかしら?」

おじさんたちとのやりとりに区切りをつけたお母さんが振り向きざまに問いかける。

「っすぅーーー...........。はあぁぁーーーー。...うん!大丈夫!」

「うん、私ももう平気。」

しばらく時間があったのでだいぶ回復した。アンリも深く呼吸をすると、いつもの調子を取り戻していた。

「じゃあ、行きましょうか。敵は目の前よ。」

「うん!」

「うん。」

もうすぐ、私とアンリの魔獣狩りが始まる。

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