#49「戻る」
「ぐっ......」
静寂を破ったのは、フォルロさんの声だった。
「...スズネ......あのガキは...?......アンリは、無事なのか......?」
苦しそうに起き上がりながら、状況を私へ問いかける。
「...あの男の子なら逃げていきました......。アンリの攻撃で......腕を失って...。......アンリは、気を失っている、だけです......。」
今私に分かることを端的に伝える......。正直、想像を超えることの連続で自分でも状況を正しく認識できているか分からない...。
「...そうか......。なら、早くここを、離れる...ぞ......ゔっ......」
「...フォルロさん......!」
フォルロさんは立ち上がり歩き出したが、まだ体が痛むのか苦しそうな様子はなくならない。
「大丈夫だ......。それより、お前...動けるか...?」
先ほどから腰が抜けている.....。
でも...
「すぐ...動けるように、なります......!」
「いや、無理はするな...。むしろちょうどいい、お前らは私が抱えてく。」
「...!それじゃあ、フォルロさんが...!」
フォルロさんには、さっき壁に衝突したダメージが残っているはずだ...。今も苦しそうにしているのに、それこそ無理をさせられない...!
「大丈夫だと言っただろ。あのガキが戻ってこないとも限らないからな...、早くここを離れた方がいいのは確かだ。...それにな、さっき壁を"破壊"したアンリの爆発...、下手すりゃあれが地上に響いちまってるかもしれねえ。...地下の入り組んだ構造じゃ、すぐに誰か来ることもないとは思うが......出来れば見つかるのは避けてえんだ。だから、さっさと出るぞ。......お前はランプを持っててくれ。」
そう言うフォルロさんにランプを手渡されると、私とアンリは抱えられてしまう。
「...人が来ると問題があるんですか......?」
私たちを抱えて走りだしたフォルロさんへ問いかける。
少年が戻ってくる可能性を考えれば早くここを離れることは正しいと思うが、...他の人が来たとしても、さっきの少年の様に敵になる訳じゃないはずだ。
「...忘れたか?お前らが問題を起こすと私の責任になるんだ。...ほとんど事故みたいなもんとはいえ、壊された壁を見られちゃ言い訳のしようがねえ。」
...そういえば、メルカートでフォルロさんは私たちの保証人となってくれた...。
「ご、ごめんなさ...」
「いい。謝るな。」
私の謝罪は遮られる。
「さっきのガキの、あの異様な力...。......アンリがいなきゃ、私たちに命があったかは分からねえ......。だから、むしろ私は助けられたんだよ。...もし、あの壁の責任が私に回って来るようなことになっちまっても、お前らは気にしなくていい。」
「......分かり、ました。...ありがとうございます...。」
「ああ...。――とにかく一度戻る。...財布、まだ取り返してないからな......。」
「あ......!」
すっかり忘れていた......!
―――。
フォルロさんに抱えられたまま通路を戻ると、奥に灯りが見えてくる。
――あの子供たちのいた空間だ。
灯りが漏れる壊れた壁からは、子供たちが顔を覗かせていた。
だが、私たちが近づいてくることに気がついたのか奥へと逃げていく。
「アイツら、まだここにいたのか...。」
灯りが灯るパイプだらけの空間に入ると、さっきの子供だちの姿が見えない......。きっと、最初に入って来た時と同様に隠れているのだろう...。
「おい、財布あったぞ。」
フォルロさんが私を抱えたまま腰を下ろし、私は財布を手に取った。
「よかった......。」
「...中身も確認しておけ。ガキ共が抜いてるかもしれん。」
「は、はい...。」
財布の無事に安堵するも、フォルロさんの言葉で慌てて中身を確認する。
中には――1万アクティクタ紙幣が1、2、3......9枚と、鉄道のお釣りでもらった千アクティクタ紙幣と硬貨がちゃんとある。
「大丈夫です...!」
「そうか。なら急いでここを離れるが......――お前ら!ここには人が来るかもしれねえ!捕まりたくなけりゃ、別の根城を探すことだ!」
フォルロさんが空間に向けて叫ぶ。
さっきの子供たちに向けているのだろう...。
「...まあ、これであのガキ共もここを離れるだろう...。...スズネ、こっからは全速力で行く。上の人間が来るとしたら、私たちの入って来たマンホールは危ないからな、少し時間はかかるがあそこを避けて行きたい。...だから、その間ランプを落とさないよう頼む。」
「は、はい。お願いします...!」
私の返事を受け――
「よし。じゃあ、――行くぞ...!」
ブゥン
――風を切り、フォルロさん走り出す。
こうして私たちは、あの子供たちの根城であった空間を後にした――。




