#48「静寂」
「――あ゛!?またかよ!?邪魔すんじゃねェっつってんだろォがッッ!!!」
少年が怒号を上げ、フォルロさんを追うように私はアンリへ向かい走り出した――
ズゴォォォォン!!
――瞬間――アンリが...爆発し...た...?
「―――ッ!!?」
少年の表情が一瞬で変わり、その体を藍色のオーラが包もうとしている。
――が、
「ぐがッ―――!?」
そのオーラをアンリの拳が切り裂くように吸収し、......少年を殴り飛ばした......!
「アンリ......!」
アンリは無事だ...!さっきの爆発は、拘束していたオーラを"破壊"するためのものだったんだ...!
ひとまず安心だが、目の前の光景にまた不安が溢れる。
少年を殴り飛ばしたアンリはすぐにその後を追ってしまい、通路の奥の闇へ消えていってしまう。
奥から何度もの打撃音が響くが、それも次第に遠くなっていく。
......追いかけなければ...。
「くそっ、あいつはいったいどうしちまったんだ......。」
アンリが少年を殴り飛ばし、暗闇に消えていったため、フォルロさんがランプを取り出そうとしていた。
すぐにアンリを追いかけたいが、一度フォルロさんの元へ駆け寄る。
「...。おい、スズネ......。アンリのあの力はなんだ......?」
追いついた私に問いが投げられる。
「......私も...分かりません......。」
アンリが見せた、オーラの吸収。あれはいったい...。
アンリが扱えるのは、<壮烈>と<強靭>のオーラだ...。この2つのオーラが持つ性質であんなことが出来るものか...?<壮烈>のオーラによる、オーラそのものの"破壊"によって切り裂いたように見えた...?...いや、明らかに切り裂かれたオーラは、アンリの拳に吸い込まれているようだった...。
だとすれば本当に吸収を...?
だが、オーラの吸収を人が扱えるなんて聞いたことがない。
「......そうか...。――とにかく、アンリの攻撃はあのガキに通る。今はそれだけ分かれば充分だ。...私たちも急いで追うぞ...!」
「は、はい...!」
ランプを灯し終わったフォルロさんに続き走りだす。
―――。
「......ザケやがってェェェェエエェェェェッッッ!!!!」
追いかけ始めて、また聞こえてきた打撃音。それが止んだところで、少年の叫び声が響いた。
「――!!」
アンリと少年の移動は止まったようで、距離が縮まっていき2人の姿が見えてくる。
...なに......あれ...?
地に伏せている少年の首から、無数の蠢く骨が突き出てきた...。
あれは、まるで――魔獣――。
「――死ねェェェェェェェッッ!!!!」
異様な光景に唖然としていると少年が叫ぶ――と同時にアンリの正面へ――!
「アンリっ......!!」
アンリも迎え撃つつもりなのか、拳を構えているのが見えた...!
「くそッ...!」
ブゥン
フォルロさんが、瞬時に超スピードによって少年に向かって行く――が、やはりあの藍色のオーラが現れる...!
「グハッ――!!」
超スピードのまま少年へと拳を突き出したフォルロさんは、その勢いのまま進行方向を"歪曲"され、通路の壁に衝突した...!!
――やはりあのオーラが相手では......!
アンリと少年を遮るものがなくなり――2人の拳がぶつかる......!!
その激突によって、また爆発を起こすかと思われたアンリの拳の<壮烈>のオーラが、少年へと――流れていく...!?
――あの少年もアンリと同じことを......!?
......いや、一つ違った...!
少年に吸収されていこうとするアンリのオーラは..."解放"され始めている......!
ズドン......!!
少年に吸収される直前で"解放"による爆発を引き起こしたアンリのオーラは、鈍い爆発音と共に少年の腕から――血飛沫を放った。
――え。
「――...ァ...アァ......!...ボ、ボクの腕がぁ......!!」
悲痛な声が聞こえる。
「――!?」
――少年は右腕を失っていた。
......あ、あれをアンリが.........?
アンリはなおも少年に向かって歩みを進め始める。
――...止めなくては――
「――!?......お、オイッ...!...来るなァッ...!来るなァァ!!!」
地に伏せていた少年は、起き上がり、走りだした。
――そして、アンリの足に橙の光が――
「――アンリッッッ!!!」
後ろから抱きつくようにアンリの体を抑える......!
...確信があった...今のアンリは、あの少年を殺すまで止まらない......。
だから、止めなくて...は...?
――腕の中のアンリは、抵抗するどころか...脱力し、私の腕へ体重をかけてきた。
「......アンリ...?」
地面に落ちたフォルロさんのランプの灯りでアンリに様子を確認する。
――気を、失ってる......?いや、むしろ...
アンリの目蓋は閉じており、先ほどまでの狂気じみた暴走とは無縁の――いつもの愛らしい寝顔を見せていた......。
一気に脱力し、体が落ちる――
ドサッ
通路の奥へと走っていた少年はいつの間にか見えなくなっており、...辺りには、しばらくの静寂が続いた。




