#45「少年」
ズキッ――
突如、目の前に現れた少年...。あの姿が目に入ってから、ずっと頭が痛む...。
これは、いったい...。
「――キミたち、誰?」
先ほど、女の子をわたしがいる方と逆の壁際に投げ飛ばした少年は、冷たい声でわたしたちに問いかけている。
「お前がコイツらの親玉か?」
「...質問してるのはボクなんだけど?」
フォルロさんの言葉を受け、より冷たさの増した声が響いた。
「......そうだったな。...私たちは盗まれた財布を取り返しにここへ来た。お前が誰だか知らないが、返してもらえるならすぐにでも退散させてもらう。」
「ふぅん。だからか...。――それで、この人たちから財布を盗ったのは?」
少年の声で場の空気に緊張が走る。
少年が現れてから、フォルロさんへ攻撃していた手を止め、俯きながらその場で立ち尽くしていた子供たちは、壁際にへたり込んでいる女の子を一斉に見た。――1人を除いて。
「なんだ、リース。キミかい?」
少年がしゃがみ込み、女の子と視線を合わせる。
「......ッ...!」
女の子の怯えがより一層強くなり、震え始めた。
「盗ったものは...?」
「......ぇ...?.........ぁ......。......!」
女の子は震える手で懐から財布を取り出す。
あれは、まだあの子が持ってたんだ...!
「......へぇ、1万が、1、2、3......9枚...!ずいぶん、大物を引き当てたんだね?やるじゃないか...!」
「......!......ぁ、はぃ......!」
少年の明るい声で、女の子の瞳に僅かに光が灯る。
「――でも、この状況の責任は取ってもらうよ。」
少年の明るい雰囲気は一瞬で鳴りをひそめ、すぐに冷たい声色に戻ると、女の子の首を掴み持ち上げた......!
「......ぁ!?......ぁがっ......!......ゃ...!」
「どうせまた、カリルに手伝ってもらったんだろう?しかも、足を引っ張ってつけられた...。違うかな?」
少年の視線は、子供たち――さっき1人だけ女の子から目を背けていた男の子へ向けられる。
あの男の子は、女の子と一緒に逃げてた...。
「おい!お前、やめてやれ...!」
フォルロさんが少年に声を上げたが、少年は意に介していないようで...
「――聞こえなかったかい、カリル?」
...フォルロさんを無視して、再度口を開く。
カリルと呼ばれた男の子は、ずっと目を泳がせていたが......少年に改めて問われたことで、小さく頷いた。
「やっぱりね。じゃあ、リース。キミはここまでだ。」
「...ゃ......!!......!!.......!!!」
「オイッ!!」
ズンッ!!
フォルロさんとわたしは同時に走り出していた。
少年が女の子の首を掴む力が強くなっている...!今すぐ助けないと、きっと手遅れに...!
フォルロさんよりわたしの方が少年に近い上に、背後をとっている。だから、このまま後ろから――
女の子を引き離すため、少年目掛けて突っ込んだが――一瞬、視界が藍色に――と思えば、目の前にフォルロさんが現れた......!?
「わぁっ!?」
「うぉっ!?」
わたしとフォルロさんの体が衝突し、お互いの勢いが殺される。
「アンリッ!フォルロさんッ!」
地面に倒れた私たちの元へ、奥にいたスズネちゃんが駆け寄って来た。
「アンリ!大丈夫...!?」
「うん...。でも......」
起き上がりながら、少年の方を見る。...掴まれた女の子のもがきはかなり弱々しくなっていた......。
「急になんだよ?危ないだろ。」
少年の声は僅かに苛立ちを滲ませている。
「まあ、お前たちはあとだ。......さあ、リース。いくよ。」
そう言った少年の手から――黒い何かが――
――ズキンッ!
頭に強い痛みが響く。
「...え......。」
「なんだ...ありゃ......。」
あれは......あれは、ダメだ......
――ズキンッ!!
何かは分からない......だけどダメだということは分かる.........
――ズキンッ!!!
立ち上がった。
「あ、アンリ...!?」
――地を蹴った。
「――また?」
―――全力を拳に込めた。
「無・限――」
――――視界が黒く染まった――




