#44「子供たち」
シューッ
辺りに張り巡らされたパイプは進むほど、蒸気を噴き出す頻度が増えていき、ランプで照らされた視界に僅かなモヤをかけるほどのなっていた。
「あそこだ。」
そう口にしたフォルロさんはランプの火を消す。
「あの角の先は少し広い空間になってる。」
フォルロさんの視線の先にある曲がり角は、薄っすらと明るくなっており、ランプが消えた状態でも私たちの視界は暗闇に閉ざされることが無かった。
「あそこを曲がれば、あのガキ共がいるだろう。......アイツらはオーラの力を使っていた...さっきはああ言ったが...いざとなれば自分の身を守ることを優先しろ。...いいな?」
「...うん......。」
「分かりました...。」
あの子たちを傷つけないように、お金を取り返す。
口で言うのは簡単だが、オーラを扱う相手に抵抗されれば、私たちも危険な目に遭う可能性は充分にある...。そうなれば、私も刀を使って応戦することになるだろう...。
...もし、そうなってしまった時に、刃があの子たちを傷つけないよう、腰に携えた刀を裏返して差し直す。
これで抜刀しても峰側が相手に当たるようになる。
...本当は使わずに済むのがいいのだろうけれど......。
「よし...。なら行くぞ。」
そう言って再び歩みを進めるフォルロさんに続いて曲がり角へ向かう。
―――。
「だれも...いない......?」
アンリの呟きが空間にこだまする。
曲がり角を抜け進んだ先には、フォルロさんの言う通り少し広い空間があった。
空間の壁にはいくつものランプが設置されており、その灯りに照らされて、至る所に通ったパイプが目に入る。そのパイプは、空間の奥にいくつかある大きな箱のようなものに繋がっていた。
「いや、隠れてるだけだろう。ここは死角が多いからな。...スズネ、周りを"知覚"しておけ。アイツらとの接触は私がする。」
そう言って、フォルロさんは1人で中心に向かい進んでいく。
私も周りを"知覚"出来るように意識を集中し始めた。
「おい!ここにいるんだろ!...私たちにお前らを害するつもりはねえ!だから財布を――」
――っ!!
私の"知覚"は子供のような気配を捉えた――!
だが、その数が―――20以上は――!?
「フォルロさんッ――」
20以上の気配は、一斉に動き出す――フォルロさん目掛けて...!!
「!?」
ドドドドドドドドド
長身なフォルロさんに隙間なく子供たちが飛び掛かった。その一人一人の体からは、僅かに橙に走る光が見える...。
――<強靭>のオーラだ......!!
私から財布を盗った女の子も使っていた...。そして今は、ここにいる子供たち全員がそれを使い、フォルロさんへ矛先を――
「...最近のガキは、協力を覚えただけでなくどいつもこいつもタフときたか......。」
フォルロさんの声が響く。
良かった...無事なようだ...。それに......
フォルロさんに飛び掛かった子供たちが空中で静止して...というよりも振りかぶった腕や足が埋まっている...!
あれは...、オーラの"圧縮"......?
子供たちの隙間からは、フォルロさんを中心にした橙の結晶が顔を見せている。
子供とはいえ、人を拘束出来るほどの"圧縮"をあのサイズで展開できるなんて...。フォルロさんは想像以上に強いオーラを持つ人のようだ。
「お前ら...離して欲しかったら、大人しく財布を返せ。」
「......!」
周りの子供たちは必死に抜け出そうともがいている。
「......あくまで抵抗するか...。オイ!アンリ!スズネ!お前らこの辺探してみろ!...どっかに盗品を隠している場所があるかもしれん!」
「う、うん...!」
「はい...!」
フォルロさんの言葉を受け、アンリと一緒に中へ踏み込んだ。
この空間はパイプだらけだが、何かを隠すとしたら......。
奥の大きい箱へ視線を向ける。
何やらいろんな部品が付いているあの箱なら物を隠せそうだ。
アンリは入り口周辺のパイプを見ているようだし、私は奥から行こう。
そう思い、箱へ近づいていく。
「おい...お前ら、諦めねえか?私たちが返して欲しいのはさっき盗られた財布だけだ...。それを返してくれりゃ、これ以上何もしねえ。」
フォルロさんは、子供たちを捕らえた状態で身動きが取れないので、説得に掛かっているようだ。
...その子供たちはといえば、未だ応じる様子は無く、必死に抜け出そうとしている。
だが、その様子に少し違和感を感じた。...捕まっているのだから必死に抜け出そうとするのは当然だが...子供たちの表情はどこか悲壮めいた焦りが滲んでいる。
――なんでそんなに...。
それに、違和感といえばさっきから視界がやけにぼやける...。噴き出している蒸気が溜まっているのだろうか...。
いや、この違和感どこかで...。
――。
蒸気をよく視る......ランプの灯りで照らされた白い蒸気は、僅かに赤みを帯びて――
――待て、これは森の時と同じ――
バリンッ!
突如、何かが割れる音が響く。
「チッ、マジか......!」
フォルロさんの結晶から女の子が1人抜け出して――
「お前ら気をつけ......あ...?」
――入口へと駆けていく......!
あの動き、間違いない...!!!
「アンリ逃げてッ!!!」
「――え」
入り口に近いアンリならまだ間に合―――
――瞬間。蒸気に混じった赤色が"解放"され、激しい爆ぜる...!
ボボボボボボボ――ッ!!!!
「ゔっ――」
その衝撃波によって吹き飛ばされた私は壁に打ち付けられた。
<壮烈>のオーラを"拡散"して、そのまま"解放"を...!
「ぅうっ...いたた」
――アンリも吹き飛ばされ壁にぶつかってしまったようだが、しっかり意識はありそうだ...!
...どうやらオーラそのものは大した威力ではないようで、吹き飛ばされるくらいで済んだが......。
「クソッ...!」
フォルロさんの結晶は"破壊"され、自由になった20近い子供たちの攻撃を受けている...!
「お前らまたすぐに――」
「――ねえ。」
冷たい声が響く。
――なに......?
声がした方向である入り口へ目を向けると......そこには1人の、黒髪の少年がいた...。
「コレ、どういうこと?」
私たちと同じくらいだろうか...子供たちよりも一回り大きい少年は、さっき逃げていった女の子の首裏を掴み、持ち上げている。
あの子、よく見たら...さっき私の財布を盗んだ子だ...。
「ねえ、聞いてる?」
「...ぁ......!......!...ぇ.........!」
少年に問われた女の子の表情は、酷く怯えている...。
「まあ、いいや。」
ズサッ――!
「ぅ......」
少年は女の子を壁際へ投げ捨てた。
この少年は一体何者...?
この子供たちの仲間......にしては身なりが整いすぎている...。
「分かんないから直接聞かせてもらうね。――キミたち、誰?」
少年の冷たい眼光が私たちを射抜いた。




