#38「保証人」
「ようこそ!メルカートイチリ区支部へ...ってフォルロさん?...何してるんですかこんな所で?」
イニティアの時と同じように迎え入れてくれる受付の女性だったが、フォルロさんに気付くと疑問を投げかかけてくる。
「ああ、ちょっと休暇申請をな...」
「え、どうしたんです?体調でも悪いんですか...?バカは風邪引かないのに...。」
「うるせぇ、殴られてえのか。」
「あははー、クビにしますよー?......それで、その子達は?」
少し殺伐としたやりとりが繰り広げられた後、フォルロさんの後ろにいる私たちに受付の女性の視線が向けられる。
「...コイツら、イニティアから森を抜けて来たらしくてな...、しかも、話を聞けば私の昔馴染みの娘たちだっていいやがる。それを聞いて心優しい私はしばらくコイツらの面倒を見てやろうと、給料返上でお休みを貰いに来たわけだ。」
少し引っかかる部分もあるが、言っていることは大体合っている。
「それ、どこから笑えばいいんですか?」
「あ?...いや、嘘ついてるわけじゃねえって。」
だが、受付の女性には信じてもらえていないようだ。
「ねえ、キミたち。この人に脅されて連れ去られたとかなら助けを求めていいからね?...いくらガラが悪くたって、所詮は資本の奴隷なの。この人はここじゃ無力なのよ。」
女性は優しい口調で私たちに語りかける。
「フォルロさん嘘ついてないよ?」
「...え、本当に?」
アンリの答えに女性が目を丸くする。
「はい、私たち南から来ました。...これ、イニティアの通行許可証です。」
たぶんこれを出すのが一番早い。
「あら、本物。...じゃあ本当に......。」
どうやら信じてもらえそうだ。許可証の力をつくずく思い知る。
「なあ?だから言っただろ。」
「はい。疑ってすみません...。私てっきり誘拐の罪でフォルロさんを牢に入れなければいけないかと思ってしまいました...。」
「お前な...。」
女性の冗談にフォルロさんは呆れた様子だ。
...冗談、なのかな...?
「とりあえず、そういうことだから私の休暇と...コイツらに区間移動許可証を頼む。」
「はーい。承りました。...では、まず休暇ですが日数はどうされます?」
「シヨテス区まで行かなきゃならんからな...悪いが今日と明日で2日分貰えるか?」
「書類上は問題ありませんが、現場は問題ありませんか?」
「ああ、私1人抜けたくらいじゃ、アイツらの仕事に問題はねえさ。」
「そうですか。...フォルロさんは戦力外...っと。」
「オイ」
そんなやりとりの中、女性の視線が再び私たちに向けられる。
「シヨステ区までってことは、キミたちさらに北に行くんだよね?...その、失礼だけどお金はちゃんとある?」
私たちがノーティアに行く為には、ケントルアの北から鉄道に乗らなくてはならない。そのためにはお金が必要であり、他にも旅先で使えるようにとお父さんが多く持たせてくれた。
なんだかんだここまで使ってこなかったので、初めて鞄から財布を取り出す。
「...えっと。一万アクティクタ紙幣が10枚あるんですが...足りますか?」
「充分すぎるな。」
「そうですね。でも、あまり外でそのお金を出さないようにね?...この辺は大丈夫だけど、治安の悪い区もあるから。」
...お母さんが言っていた、ケントルアはすごく発展している街だけど、貧富の差が激しく、場所によっては物盗りをするような悪い人もいると。
「はい。気をつけます。」
「うん。しっかりしてそうだし大丈夫だね。...じゃあ、次に区間移動許可証ですけど、保証人はフォルロさんで問題無いですね?」
「あ?なんだそりゃ?」
「区間移動許可証をすぐに発行するには、現地の保証人が必要なんです。...保証人がいない場合は、しばらくこのイチリ区に滞在してもらうことになります。」
「えー!?」
アンリが驚きの声を上げる。
ケントルアに着けばノーティアはもうすぐ...だというのにここで足止めだと言われればアンリが残念がるのもしょうがない。
「そんなのあったのか?」
「ええ。メルカートが主導となっているキャラバンはこの制限がないので、個人で訪れた人がいた時しか使われない制度なんです。だから南では滅多にないことなんですけどね。」
「フォルロさん!ほしょー人になって〜!お願い〜!」
「まあ、待て。...それで、その保証人ってのはどういうものだ?」
「はい、まあ簡単に言ってしまえば、許可証を持つ人間が移動許可が必要な区画で何かしら問題を起こした場合、その責任が保証人に回ってくることがあるというものです。」
「そうか。...お前ら問題を起こさないと約束できるか?」
「うん!」
「はい。大丈夫です。」
フォルロさんに連れられて移動するだけだ。余程のことがないと問題など起きないだろう。
「よし!じゃあそれで頼む。」
「はーい。かしこまりましたー。じゃあ、発行させて貰いますけど、その前にお二人のお名前伺っても?」
「そーいや私もまだちゃんと聞いてなかったな。お前ら名前は?」
「アンリ・クリムベルです!」
「スズネ・プルウィア、です。」
「はい、ありがとうございます。では発行して来ちゃうんで少々お待ちくださーい。」
そう言って受付から席を外す女性を見送った。




