#37「中央都市ケントルア」
「.........!」
門を抜けると、そこは異世界のようだった。
立ち並ぶ石造りの建物...。造りはイニティアで見たものと同じようなものだったが、その高さに驚く。
すぐ目の前のものだけでもわたしの身長の10倍以上はありそうなのに...街並みの奥の方はそれ以上に高い建物があった。
そして、イニティアとの一番大きい違いは、目にした時の印象だった。
イニティア同様、通りを行き交う人々は活気に溢れているようだが、...街そのものの印象は、なんというか暗いものがあった。
まだ日は出ているはずなのに、どこか薄暗いというか...。
周りをよく見渡すと、建物の壁や石畳の道が所々黒ずんでいる。
その上、空は僅かに灰色を滲ませ、虹の色をくすませている。そして、その灰色は視界の右側にいくに連れて濃くなっているようだった。
「物珍しいか?」
キョロキョロと周りを見渡しながら歩くわたしを見てフォルロさんが言う。
「うん...!わたしの知ってる村や街とは全然雰囲気が違う...!」
...今、わたしは広い世界を見ている......!
活気がありながらもどこか薄暗い...今まで考えもしなかった世界を目にしたことで、この世界の広がりが、想像だけではなく実感として湧いてきた。
「あの...。」
そんなわたしの感動を他所にスズネちゃんが口を開く。
「お、なんだ?」
「......なんで戻ってきたんですか?」
フォルロさんに投げかけられる問い。
確かに、洞窟を抜ける直前に一度別れているはずなのにフォルロさんは戻って来てくれた。
どうやら心配して戻って来てくれたようだったし、やっぱりフォルロさんは良い人なのかもしれない。
「...そ、そりゃ、お前らが心配になっちまってな......」
「仕事を休む程、ですか?...パアになるんでしたよね、給料。」
うぅ、スズネちゃんがちょっと怖い......。
何かを怪しんでいるような様子だけど、もしかしてまた何か裏が...?
「わかった、わかったよ。そう睨むな...。」
フォルロさんが降参と言ったように両手を上げる。
「...正直なことを言うと、お前らに恩を売っておこうと思ってな......。」
「恩?」
疑問が口を出る。
「ああ...。その、...お前を蹴り飛ばしちまったことをメルカートの連中に報告しないと言ってくれたのはいいんだが、...それがお前らの母親...エリナに伝わるようなことがあれば私の命が危ない...。」
命...?お母さんに殺されてしまうと思っているのだろうか?
「お母さんそんなことしないよ!」
「ん、いや、そりゃ命までとられることは無いんだろうが......確実に半殺しにされる。」
そう語るフォルロさんの表情には怯えた感情が滲んでいた。
「...あ、あの母と昔何かあったんですか...?」
先ほどまで少し怖いくらいの態度だったスズネちゃんも、どこか気遣うような口調に変わっている。
「...いや、私から手を出して返り討ちにあったってだけの話だ......。それ以来、舎弟のような扱いにはなったが...。」
舎弟。お母さんはフォルロさんを力でねじ伏せて従わせていたということだろうか。
うーん、いくらお母さんでもそこまで乱暴なことは......
「「やるかも...。」」
たぶん同じことを考えていたであろうスズネちゃんと言葉が被る。
旅立つ前にお母さんに言われた、悪い人以外に無闇にオーラの力を使ってはいけないという言葉...。
それに続いたのは、むしろ悪い人がいたら、オーラの力を使ってでもぶっ飛ばしてやりなさい、というものだった。
フォルロさんから先に手を出したということであれば、当然それは悪いことだし、お母さんならそれを打ち負かして従わせるということぐらいはやってしまいそうだ...。
「娘から見てもそんな感じなのかよ...。こりゃますます戻って来て正解だったな......。」
わたしたちが同時にした反応を見て、余計に顔がこわばっている。
「...というわけで、私はお前たちに恩を売っておきたい...。だからまあ、せいぜい好きに頼ってくれ。」
「うん!ありがとう!」
「...はい、......お願いします。」
経緯はどうあれ、ケントルアに初めて来たわたしたちを案内してくれる人がいるというのはやっぱり心強い。
スズネちゃんもそう思ったのだろう、少し不満げながらも了承の言葉を口にする。
「よし!じゃあまずはここだな。」
フォルロさんが大きな建物の前で立ち止まる。
近くに看板には「メルカート」の文字があった。
薄暗い街並みの中、雑踏を掻き分けてしばらく進んでいたが、いつの間にか目的地に辿り着いていたようだ。
「手続きや説明は私がやってやるから、入るぞ。」
そう言うフォルロさんに続いて、わたしたちはこの街のメルカートへと入っていく。




