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空架ケル虹の彼方 -Unlimited Longing-  作者: 山並萌緩
イェソド大陸-エレウ山脈麓

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33/85

#33「突然の」

エレウ山脈から中央都市ケントルアまで行くには、山脈の中に掘られた洞窟を抜けていくことになる。

その洞窟はイニティアとの交易のためのキャラバンも利用するということもあり、かなり大きいものらしいが、それでも巨大な山に開いた一つの洞窟でしかないことを考えれば目印無しに向かうのは難しい。

もちろん、私たちはその洞窟へと続く街道の近くにある川に沿って歩いてきたので、このまま進んでいれば目的地に辿り着く。

だが、もし場所が分からなくなるようなことがあれば、と教えてもらった目印が()()()

「ねぇねぇスズネちゃん!あれ!近くまで行ってもいい!?」

興奮気味なアンリが指を指しているのは、――建設中の巨大な橋だ。

あの橋は、最近建設が開始されたらしく、いずれはイニティアとケントルアを繋ぐ高架鉄道の線路になるものだと言う。

そして、その始点となる場所こそ、私たちが向かうべき洞窟がある場所となっている。

「そうだね、山の麓はもう見えてきてるし、このまま橋の方に向かおっか。」

「うん!」

私たちは今まで沿ってきた川を離れ、橋の方向へ歩き出した。


―――。

「おっきぃ......。」

眼前の巨大な建築物にアンリが唖然としている。

橋...というよりは建設中の支柱だが、それにだいぶ近い位置まで辿り着いた。まだ数十メートルは先にあるはずだが、見上げないとその高さを確認できない。

なんという大きさだろう...。村の南にあった森の木でもここまで大きくはなかったはずだ。

これが人の手で作られているのだと言う事実に息を呑む。

アンリと2人でしばらく見入っていると、橋の方から走ってくる人影が見えた。...すごい勢いだ。

「おーい!アンタたち、こんなとこで何を.........ん?子供...!?」

大きな声を掛けながら近づいてきた人影...力強い印象のある背の高い女性が、私たちの姿を見て驚いている。

「お前ら、どうやってこんなところまで...!いや、話は後でじっくり聞く。...。」

女性はそう言いながら私たちに近づいてくると...

「え、ちょっと...」

「わわわっ」

アンリと私を抱えて――走り出した...!

「......っ!」

物凄い勢いで風が顔に当たる。

さっき私たちの元へ走ってきたスピードより速い...!

「悪いが私はこのガキたちを関所に預けてくる!!!引き続き作業は頼んだぞ!!!」

「ぅっ...!」

橋の支柱の真下近くまで来たところで止まった女性は、支柱の上部にいる人たちに向かって耳をつんざくほどの大声を上げた。

その声を聞いた人たちの反応は、驚きや了承の声を上げるなど様々だったが――

「...ぎっ...!」

「ぅわぁぁぁぁ!!」

その様子を捉えていた視界が、すごい勢いで流れ出す。

女性が再び走り始めたようだ。

あまりに突然のことでほとんど思考が止まってしまっていたが、少しずつ冷静さが戻ってきて回り始めた頭で考える。

――今のこの状況は、なに...!?

私たちは、建築中の橋を見ていた...。そしたら突然やってきた女性に連れ去られようとしている...。

「...ぐっ...!」

「おい、暴れるな。」

抱えられた腕から抜け出そうと身をよじるが、全く身動きが取れない。

「んー!」

抵抗が出来ないのはアンリも同じなようで、反対側の腕には私と同じようにもがいている姿があった。

抜け出すことはできない...!そもそもこの女性はなんだ...!?私たちをどこへ...

ここまでの状況を整理する。この女性はさっき支柱にいた人間に声をかけていた...。あれはおそらくこの橋を建設している作業者だろう...。だからこの女性はその関係者...いや、この人も作業者の1人というところだろう。

だとしたら、余計に何故こんなことを...?

「しかし、この荷物...家出でもしたのか...?やんちゃは結構だが、場所は選べ...全く。」

女性が呟く。

いや、私たちは家出じゃなく、ちゃんとお母さんにもお父さんにも認めてもらって......

――違う。

一つの可能性に気づく。

南から森を抜けてきた私たちに対して、何かしら咎める理由があるとすれば、それは()()という言葉じゃ済まないはずだ。

だから、おそらく――

「...私たちは森を抜けてきましたっ!!南から!!」

強い風に掻き消されないように大きく叫ぶ。

「あ?......つくならもう少しまともな嘘をつけ。」

......。

信じてもらえないようだ...。

思えばイニティアでも私たちだけで北へ向かうことを驚かれたことがあった。だから、この女性には最初からそんな選択肢はないんだ...。

「ほんとだよーー!!」

「うるさい、少し黙っていろ。」

アンリの必死な抗議の声も全く聞き入れてもらえる様子がない。

......まあ、おそらく悪いようにされることも無いだろうし...大人しくしていよう...。

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