#31「夜明け」
光を感じ意識が覚める。
目蓋がゆっくり開かれると白んだ景色が目に入った。
「........んん........。」
........今は朝.........?.........昨日は.........。
―――!!!
一瞬で意識が冴える。
そうだ...!昨日の......―――
「......あ...おはよぉ、スズネちゃん......」
飛び起きる私の視界には傍らに座っていたアンリが映った。
「おやすみぃ......」
アンリは私の姿を確認するのとほぼ同時に私にもたれ掛かるように寝てしまう。
思考がアンリカワイイで埋まりそうになるが、何とか整理する。
昨日確かにコウモリの魔獣は倒したはず......そのあと...アンリに背負ってもらってからの記憶がない......。
私はあの時寝てしまったのか......!
――じゃあ、夜の間誰がアンリを――
――違う。目の前で寝始めてしまったアンリ......
まさか、一晩中私を.........!
「.........すぅ......すぅ......」
アンリが私を夜の間守ってくれていたのだという事実に気づき、その寝顔を見つめる。
「......ありがとね、...アンリ......。」
頭をひと撫でした後、私が寝ていた布にアンリを横たえた...。
―――。
アンリのそばに座りながら干し肉を口にする。
鞄に入っていた干し肉は昨日見た時よりも減っていたので、私が寝ている間にアンリが食べたのだろう。
ちゃんと食べてくれていて良かった...。
昨日は一日中歩いて夜に休もうとしていた時からあのコウモリを倒すことになってしまった。
私もそうだが、そのせいで体の消耗は多かったはず...。そんな状態なのに一晩寝ないでいてくれたようだが、食事だけはしてくれていたようで安心する。
そうだ...。
鞄に視線を向けたことで一つ思い当たり、方位磁針を取り出した。
クルクルと回る針はしばらくすると止まり、止まった針の赤い部分...それが私たちが進むべき方向だと認識できた。
"歪曲"の影響はサッパリと消えたようだ。
昨日、アンリの気付きによって認識の"歪曲"に気付くことが出来たが、それ以降も違和感は残り続けていた。それが今感じられないのは、あのコウモリが死んだからだろう。
オーラの力というものは、力を使ったものの生命と精神によって成り立っている。それらが活動を停止するということは同時にオーラによる影響が無くなるということだ。
しかし、昨日の<蠱惑>のオーラ...あれが夜の霧にのみ含まれていたんだとしたら、日中にも影響を受けていたのは........あれは"持続"...?
<命脈>のオーラが得意とする形質変化"持続"。あれは、自分の制御下を離れたオーラの力の影響を"持続"させるものだ。そのため夜にだけ放出されていた霧の影響が日中まで残り続けたのだろう。
そう考えれば、アンリと共に霧の影響範囲から抜けた時にあの霧が迫ってきたことにも説明がつく。
夜に与えた"歪曲"を日中に"持続"させ、それが切れるまでの次の夜にもう一度影響を与えなおそうとしていたということだろう。
あの程度の認識の"歪曲"に一晩かけていたのだとしたら、やはり弱い魔獣ではあったのかもしれないが、......高い知能は持っていたのかもしれない。
認識がハッキリした今だから分かるが、ここ数日の私たちは同じところを行ったり来たりしていた......。
あのコウモリは毎晩、進むべき方向の認識を正しいものと逆のものに入れ替えていたのだろう。
通りで採れる木の実が減っていたはずだ......。
あれは単に数が少なかったわけでも、動物や他の人間が採っていたわけでもなく...私たち自身が採った木の実の場所に何度も訪れていたせいだ。
その状態が続けば本当に危なかったのかもしれない。あのままあそこを彷徨っていれば、食べられるものも減っていき、弱ったところをあのコウモリに狙われていただろう。
気付くきっかけを与えてくれたアンリに感謝しなくては......。
視線をアンリに向けると、そこには愛らしい寝顔がある。
「アンリ.........ありがとう...。」
きっかけを与えてくれたことだけではない...。
「――わたしもスズネちゃんのためなら頑張れるよ。」
昨日のあの言葉...。あれは、アンリを優先するあまり無理をしてしまう私に...自分もそうだと、言っていたのだろう...。
昨日に体の痛みは今は消えている...。でも、あの時確かに私は無理をしていた。
私がアンリに無理をしてほしくないように......アンリも私にそう思っている...。
...そうだよね......。
小さい頃から、ずっと一緒にいたんだ...アンリだって私のことを大事に思ってくれているなんて......分かっていたはずだ......。
本当に自分で自分が情けないと思う...。
アンリを本当に想うなら、無理なんてしちゃダメなんだ......。
だが、旅をする以上...昨夜のような危険は今後もきっとあるだろう...。
やっぱり、強くならなくちゃ...。
ノーティアに着けば、オーラの使い方を学べる。しかし、それまでにだって出来ることはあるはずだ。
立ち上がり、刀を抜く。
昨日扱えた"造形"の形質変化...あれをしっかり扱えるようになろう...。
今の私に、出来ることを――
決意を胸に始めた修練は、アンリの目が覚めるまで続いた。




